気候変動政策と市場の連動について解説!

現在、世界では気候変動という深刻な問題が引き起こっており、私たちの生活と環境に大きな影響を与えています。そこで、本記事では「なぜ、気候変動が引き起こされているのか?」「実際にどのような影響があるのか?」を踏まえて、その対策として「どのような事が実施されているのか?」を具体的な事例を用いて解説します。

目次

  1. 気候変動の動向

  2. アメリカ、カナダの気候変動に対する政策

  3. 日本の気候変動政策

  4. まとめ:環境保全の政策、情報を積極的に取り入れ、今後の気候変動の最小化に努めよう!

1. 気候変動の動向

どのような原因によって、どのような気候変動が起きているのかを踏まえて、日本の気候変動への対応策について、解説します。

(1)気候変動の原因

気候変動の主な要因は温室効果ガスの増加であると考えられています。温室効果ガスが地球を覆うことで、太陽の熱が閉じ込められるため、地球温暖化と気候変動が引き起こされます。そして、現在では、地球の温暖化は記録が残る中で最も速いペースで進行しています。以下に温室効果ガスが排出される原因を示します。

  • 発電

化石燃料の燃焼による電気と熱の生成は、世界の温室効果ガス排出の大きな原因です。電力のほとんどは石炭、石油、天然ガスを燃やすことでつくられ、それによって二酸化炭素と亜酸化窒素が発生します。

  • 商品生産

製造業と工業は、化石燃料を燃やしてエネルギーを生成し、それによって温室効果ガスを排出します。製造工程で使用される機械は、多くの場合、石炭、石油、または天然ガスで稼働します。

  • 食料生産

食料生産は、二酸化炭素、メタン、その他の温室効果ガスの排出を引き起こします。これには、森林破壊や農業と牧畜のための土地の開墾、牛や羊による牧草の消費、農作物を栽培するための肥料の生産と使用などが含まれます。

  • 森林伐採

森林を農地や牧草地のために伐採すると、温室効果ガスが排出され、炭素の放出の要因となっています。実際、現在毎年約1,200万ヘクタールの森林が失われており、非常に深刻な問題となっています。

  • 輸送手段の使用

自動車、トラック、船、飛行機の多くは化石燃料を使用して動いており、これが二酸化炭素の排出の主要な原因を占めています。実際、輸送は世界のエネルギー関連の二酸化炭素排出量の約1/4を占めており、今後数年間で輸送に関するエネルギー使用量はさらに大幅に増加することから、削減が必要な分野と考えられています。

出典:国際連合広報センター『気候変動の原因』

(2)気候変動の影響

気候変動の結果として、具体的にどのような影響が生じるのかについて、以下にまとめました。

  • 気温の上昇

温室効果ガスの濃度が高まると、地表の温度が上がります。これにより、猛暑日や熱波の増加、暑さに関連する病気の増加、屋外の労働の困難化、山火事の発生と拡大、北極圏の気温上昇などが引き起こされます。

  • 嵐の被害の増大

気温の上昇により、嵐の激しさと発生頻度が増加し、より激しい降雨、洪水、破壊的な嵐が発生します。また、熱帯性暴風雨の発生頻度と勢力も増加し、家屋やコミュニティの破壊、死者の増加、経済的損失が生じます。

  • 干ばつの増加

気候変動により、水資源が不足し、干ばつのリスクが高まります。これにより、農作物の収穫に影響が出たり、生態系の脆弱性が高まったりするほか、また、砂漠化が進行し、農作物を栽培できる土地が減少します。

  • 海の温暖化と海面の上昇

海は地球温暖化による熱の大部分を吸収します。海の温暖化により、海水の体積が増加し、氷床が溶けることで海面が上昇します。これにより、沿岸地域と島のコミュニティが脅かされます。また、海の酸性化が進行し、海洋生物とサンゴ礁が危険にさらされます。

出典:国際連合広報センター『気候変動の影響』

(3)気候変動への対応策

気候変動の対応策としては、国、企業、個人などの立場から取り組みを行っておりますが、その中でも一般的な対応策を具体例として、紹介します。

  • 緩和と適応

気候変動への対策は、「緩和」策と「適応」策の二つに分けられます。緩和策は、温室効果ガスの排出削減と吸収の対策を行うことで、気候変動の原因を直接的に取り除くものです。一方、適応策は、既に生じている、あるいは将来予測される気候変動の影響への対策で、被害を回避・軽減することを目指します。

  • パリ協定

パリ協定は世界共通の気候変動対策の目標を定めており、産業革命以降の世界の平均気温の上昇を2℃より十分に下回るものに抑えること、1.5℃に制限するための努力を継続すること、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランス(=排出量「実質ゼロ」:低炭素社会)を達成することが目指されています。

  • 日本の取り組み

日本のCO2削減に係る取り組みとしては、2016年5月に、日本は地球温暖化対策計画を策定しており、2030年度の中期目標として、温室効果ガスの排出を2013年度比26%削減することを目指しており、石炭火力発電はCO2の排出量が多いため、非効率な石炭火力発電のフェードアウト等への取り組みや二酸化炭素回収・貯留(CCS)や水素転換を日本が主導し、化石燃料の脱炭素化による利用を目指す取り組みなどの行う方針です。

出典:環境省『気候変動対策』(2020/10/09)

出典:環境省『令和元年度版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 第2節 パリ協定を踏まえた我が国の気候変動への取組』

2. アメリカ、カナダの気候変動に対する政策

最新のアメリカ、カナダの気候変動に対する政策の一部をご紹介します。

(1)気候変動に対するアメリカの政策

米国証券取引委員会(SEC)は、企業が気候変動に関連するリスクを開示することを求める声明を公開しており、企業は、気候変動が自身のビジネスモデルにどのように影響を与えるかを開示するよう求めています。

これにより、投資家は企業の長期的なビジネス戦略を予測する事が可能となると同時に、企業は自身のビジネスモデルや戦略が気候変動にどのような影響を与えるかを理解することを促進しています。

出典:米国証券取引委員会『SEC、投資家向けの気候関連開示を強化および標準化する規則を提案』(2022/03/21)

(2)気候変動に対するカナダの政策

カナダ証券管理者(CSA)もアメリカ証券取引委員会(SEC)と同様に、気候変動に関連するリスクと財務的影響の開示について報告を求めており、企業が気候変動に関連するリスクの開示、将来の作業計画の開示を求めています。

また、カナダ証券管理者(CSA)は、2023年6月26日に国際持続可能性基準委員会(ISSB)が「IFRS S1 持続可能性関連財務情報の開示の一般要件」と「IFRS S2 気候関連開示」を公表しました。CSAは、ISSBが投資家向けの開示のためのグローバルな枠組みを開発し、より一貫性と比較可能性のある開示に対する市場の需要に応える形であると評価しています。

CSAは、カナダの報告発行者に対する気候関連開示要件を開発する責任があるため、CSAのスタッフは、カナダの文脈で必要かつ適切とされる修正を加えた上で、ISSB基準に基づく開示基準を採用するために、さらなる協議を行う予定です。

出典:Canadian Securities Administrators『Canadian securities regulators report on climate change-related disclosure project』(2018/04/08)

出典:Canadian Securities Administrators『Canadian Securities Administrators statement on proposed climate-related disclosure requirements』(2023/7/5)

(3)金融機関と気候変動対策

2020年10月、日本政府は2050年までのカーボンニュートラルを宣言し、2021年4月には2030年度までの温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減するという目標を発表しました。

これに付随し、日本銀行協会も、自らの温室効果ガスの排出削減を目指し、金融面から社会経済全体のカーボンニュートラルへの移行を支援するという立場を取っており、金融機関は、顧客企業との対話を通じて、気候変動に関連するリスクや機会を多角的に把握・分析し、共通の認識を築くことを重視しています。

全銀協は、2021年12月に「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」を策定しており、これは、2050年のカーボンニュートラルへの公正な移行を支えるための基本方針であり、エンゲージメントの充実、評価基準の整理、サステナブル・ファイナンスの拡大、開示の充実、気候変動リスクへの対応などが含まれています。

出典:一般社団法人 全国銀行協会『気候変動問題への銀行界の取組みについて』(2022/06/28)

3. 日本の気候変動政策

環境省は、気候変動の対策を企業にも定着させるため、「COOL CHOICEチャレンジ」という取り組みを行っています。これにより、企業による気候変動対策への関心を向上させ、市場との連動を目標としています。

また、政策の実行には至っていませんが、「気候変動リスク・機会の評価等に向けたシナリオ・データ関係機関懇談会」等も行われていますので、以下に解説します。

(1)産業機械メーカーの気候変動の取り組み事例

株式会社クボタは、食料・水・環境の分野で事業・製品を世界に展開している企業で、環境保全に関する業界トップランナーとして、「エコ・ファースト企業」に認定されています。

クボタグループのモノづくりにおいて、生産効率向上を目指す上での基軸となる「モノの見方、考え方」である「クボタ生産方式」は、地球温暖化対策にも効果を発揮し、生産段階や物流段階でのCO2排出量を減らしています。

クボタグループは、2012年に「For Earth, For Life」をブランドステートメントに掲げ、地球温暖化対策への取組を加速しました。設計開発・調達から、生産、物流、使用・廃棄という一連のバリューチェーンにおいて、CO2排出量削減に取り組んでいます。

「クボタ生産方式」は、必要なものを、必要なときに、必要なだけつくり、後工程に送る「ジャスト・イン・タイム」と、設備や品質の異常を設備が自ら検知して止まるようにする「自働化」を2本柱とし、徹底的なムダ排除を継続しています

その他、クボタグループは、従業員の環境問題への理解と意識を高めるため、毎年6月に「クボタエコチャレンジ」を実施しています。この活動は、職場や家庭でのエコな活動の写真を募集し、集まった写真をインターネット上に公開し、写真を見た従業員が「いいね!」「(自分も)やってみたい!」などの評価をする仕組みも採用しています。

出典:環境省『「For Earth, For Life」の実現を目指した環境経営』(2019/01/10)

(2)総合物流企業の気候変動の取り組み事例

「日本郵船株式会社」は、IoTを活用して約800隻の運航データを全社員が共有・活用する取り組みを行っています。事業活動全体のCO2排出量の約90%が船や航空機による輸送関連で占めるため、早くから燃費向上などによるCO2削減に取り組んできました。

2008年に運用を開始した独自のシステム「SIMS」(Ship Information Management System)は、船上のさまざまなデータ(燃費・スピード・エンジン関連)をリアルタイムで計測し、そのデータが陸上のデータセンターに定期的に送信され、省エネ・安全運航を実現するために必要な情報を監視できるような仕組みを採用しています。

このシステムの導入により、全社員の環境・燃費・コスト削減対策に対する意識が大きく高まりました。また、SIMSを活用した燃費削減事例などを発表・共有する「IBIS-TWOプロジェクト」が行われており、全社レベルでベストプラクティスの共有、実践が進んでいます。

出典:環境省『運航データの「見える化」で全社員が自発的に改善活動へ』(2019/01/29)

(3)気候変動リスク・機会の評価等に向けたシナリオ・データ関係機関懇談会

IPCC(国際気候変動パネル)の第6次評価報告書では、気温の上昇を1.5℃または2.0℃に制限するために、温室効果ガスの排出削減の緊急性を強調しています。これを踏まえ、この会議では、気候変動に関連するデータの効果的な提供と利用を促進し、イノベーションのための持続可能な環境を創出することを目的として議論されました。

懇談会では、社会経済のシナリオ分析、気候および気候変動影響の予測モデルの構築、および金融モデルの分析と開示などが検討されていたほか、データの利用者と提供者(政府機関、民間の金融機関、企業など)が実際に推進する際の課題とそれに伴う必要な対応について議論が行われました。

出典:金融庁『「気候変動リスク・機会の評価等に向けたシナリオ・データ関係機関懇談会 論点整理」の公表について』(2023/6/30)

4. まとめ:環境保全の政策、情報を積極的に取り入れ、今後の気候変動の最小化に努めよう!

気候変動政策は、環境保護と経済成長の両面をバランス良く実現するための重要な取り組みの1つです。政府の規制や国際合意に基づく政策が導入されることで、低炭素経済への移行が進むだけでなく、気候変動対策に関連する企業や産業において新たなビジネスチャンスが生まれる事も期待されています。CO2削減は普段の生活でも実践できるものとなっているため、出来ることから始めましょう。

資料 この1冊でLCAの基礎を徹底解説資料 サプライチェーン全体のCO2排出量Scope1〜3算定の基礎を徹底解説
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