ICP(インターナル・カーボン・プライシング)の導入手順は!?企業事例を交えて解説!

企業が自身の二酸化炭素排出量に対し内部的な価格を設定し、経済活動の一部として扱う手法、ICP(インターナル・カーボン・プライシング)。

ICPの導入手順、や効果、利点を理解することで、従来より安定的かつ全社的な取り組みに基づいた、長期的な視点での脱炭素への投資基準を設定し、より効果的な脱炭素社会の実現への貢献ができます。

この記事では、導入に向けた手順や注意点はもちろん、そもそもICPとは何であるかや、そのメリットや従来と異なる点までわかりやすく解説します。

目次

  1. 導入や手順方法など、ICPを導入する目的とは

  2. ICPの導入により決まる「投資判断」の基準

  3. ICPをどう導入するか。その手順を解説

  4. 企業におけるICP導入の取り組み事例

  5. まとめ:ICPを導入して、低炭素社会実現の試みを!

1. 導入や手順など、ICPを導入する目的とは

ICPを導入するには、どのような手順を用いればよいのでしょうか。またどのような目的をもって導入するのでしょうか。ここではそもそもICPとは何かや、ICPを導入する目的と効果、導入企業についてご紹介します。

ICPとは

ICPとは「インターナル・カーボンプライシング」の略語であり、低炭素投資・対策推進に向け、企業内部で独自に設定、使用する炭素価格を指します。

ICPは、気候変動関連目標(気温の上昇を1.5℃に抑えることを目指して、温室効果ガス排出量の削減に貢献することを目標とする「SBT」と、自社事業で利用する電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目標とする「RE100」)に向けた、企業の計画策定に用いる手法であり、省エネ推進へのインセンティブや、収益機会とリスクの特定、あるいは投資意思決定の指針等として活用されています。

出典:環境省『インターナル・カーボンプライシングについて』p,3.(2021/04/02)

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン』p.6,p,85.p,86.( 2021/03/15)

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要』p,3.(2022/07/04)

出典:環境省『RE100とは︖』p,1.(2023/02/28)

なぜ今ICPなのか。ICPを導入する意味とは

今ICPが注目されている理由は、地球温暖化による世界的な気温の上昇を受け、温室効果ガスの排出量を減らすことが求められているからです。日本では現在、2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を減らすとともに、吸収量を増やして、実質的な排出量をゼロにすること)に向けた取り組みがなされており、どの業界においても急ピッチで対策を取ることが求められています。

ICPでは自社内で炭素価格を設定することにより、CO2という見えないものを見える化し、その投資額やコストを可視化したり、ICPという全部署を通した投資基準を設定し、全社で脱炭素に向けた取り組みを行ったり、現状の基準では対象外となる投資を、CO2削減量を見なしの利益とすることで対象内としたりすることができ、より効果的にカーボンニュートラルに取り組むことができます。

ICPを導入することで成果をあげた企業として、Microsoft Corporation(以下、マイクロソフト)が挙げられます。マイクロソフトは、ICPによって各部門の排出量に応じた資金を収集し、低炭素投資を推進している他、ICP活用に伴う企業風土の変革を意義の一つとして据えています。

出典:環境省「カーボンニュートラルとは」

出典:環境省「【参考資料】インターナルカーボンプライシング (ICP)の概要」p.6(2022/07)

出典:環境省『Strategy』p,42.(2023/03/04)

ICP導入の目的

ICPを導入する目的は、取り組みの要因が内外どちらに向いているかと、投資行動の緊急度の高さの2軸で整理されます。この目的によっては、ICPの価格設定や活用方法が異なることがあるので、事前に目的を整理しておくことが重要になります。

例えば、排出量取引や省エネ法といった、新たに設定された外部からの規制に対応したい場合と、投資家や評価機関にアピールするため、事業情報の開示を推進したい場合、SBTやRE100といった気候変動関連目標に貢献したい場合とでは、ICPの重要性や緊急度が全く異なります。

ICP導入目的について出典:環境省『インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン』p,9.( 2021/03/15)

日本におけるICP導入企業

日本においては、幅広い業界においてICPの導入が進められています。2021年時点で約280社がICPを導入、または2年以内の導入を予定しています。以下、ICPを導入している主な日本企業です。

  • アステラス製薬株式会社

  • 味の素株式会社

  • 国際石油開発帝石株式会社

また、以下の企業が2年以内の導入を予定している主な企業です。

  • エーザイ株式会社

  • 株式会社伊藤園

  • 株式会社オリエンタルランド

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要』p,8. (2021/04/02)

2. ICPの導入により決まる「投資判断」の基準

経営戦略としてのICPの将来性

ICPを導入する効果として、脱炭素に対する投資判断の、長期的な視野での基準を設けることができることが挙げられます。ICPでは自社内で炭素価格を設定するために、従来のように一度脱炭素に向けた活動を決めたらやるしかない、というような状況を避け、世間での動向に合わせて価格を上げ下げし、気候変動経営を行うことができます。

また、これは全社を通したものとなるために、部門でのCO2削減効果を見える化し、統率の取れた脱炭素への取り組みを行うことができます。これらのことから、低炭素に向けた取り組みが将来の事業に与える影響を、短期的な収益性にとらわれず長期的に考慮して、投資への意思決定を行うことができます。

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン』p,7,8( 2021/03/15)

3. ICPをどう導入するか。その手順を解説

ここまで、ICPの導入に重要な目的や、その効果を見てきました。ICP導入に向けた目的を整理ししっかりと定めた後には、「設定価格」、「活用方法」、「運用方法」の順番での検討が必要です。ここではICP導入のための手順をご説明します。

(1)設定価格を決める

設定価格には2種類の設定方法があり、今後の予想で価格設定をする「Shadow price(シャドープライス)」と、これまでの実績を算定して価格設定をする「Implicit carbon price(インプリシットプライス)」があります。

まずは、この種類の違いをしっかりと理解して、どちらの価格設定にするのかを検討することが重要です。設定方法を検討する上では、他社の設定価格を参考にしたり、自社での脱炭素投資に向けた協議や、CO2削減目標の分析を行ったりするなど、さまざまな視点から自社にとって取り組みやすい設定方法を見つけることが効果的です。ICPの導入を成功させるためには、最終的に社内でしっかりと合意されていることも重要です。

設定価格の検討手順出典:環境省『インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン』p,14.p,16.p,17.( 2021/03/15)

(2)活用方法を決める

活用方法には、いくつかのタイプがあり、それぞれのタイプの違いを理解した上で、今後のICP導入の展開の方向性を定めることがポイントとなります。

実資金のやり取りをしない「シャドープライス」と「インプリシットプライス」では、期待できるCO2削減量とICPを比較して投資基準の参照値としたり、投資額からICPとCO2削減量をかけたものを減額し、脱炭素への投資基準を引き下げたりと、投資の指標とする活用方法があります。

実資金のやり取りをする「Internal fee(内部炭素課金)」では、自社におけるCO2排出量に応じて、実際に資金を回収し、その資金を脱炭素技術の開発などに投資する活用方法があります。

まずは、資金のやり取りの行なわない「シャドープライス」と「インプリシットプライス」の活用方法からスタートし、自社で脱炭素投資の取り組みを浸透させた後、「内部炭素課金」へと展開させるなど、企業の脱酸素投資の展開の方向性をしっかりと定めることが重要です。

活用方法のプロセスの進め方出典:環境省『インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン』p,27.p,28.( 2021/03/15)

出典:環境省『(参考資料編)民間企業の気候変動適応ガイド-気候リスクに備え』p,5.(2019/03/28)

(3)運用方法を決める

ICP導入は、特定の部署だけで運用するのではなく、社内全体で運用していくことがポイントとなります。そのためには、各部署での役割分担が必須であり、関連部署が連携して企業の将来のビジョンを共有することが重要となります。ICP導入の活用方法に沿って、「価格の見直し」や「主体となる組織の検討」、「ICP導入の適用範囲や推進時間軸」など、企業の実態に沿った詳細な運用方法を決めます。

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン』p,35.( 2021/03/15)

4. 企業におけるICP導入の取り組み事例

アステラス製薬株式会社

アステラス製薬株式会社では、「インプリシットプライス」を用いて、製薬技術、創薬研究、販売など、自社全ての事業部門を適用範囲とし、炭素価格を100,000(円/t-CO2)で設定し計算しています。

ICPを投資基準の一つとし、風力や地熱を除いた部門では、CO2の削減コストがICP以下となる時は投資を実施すると判断することで、低炭素投資を推進しています。

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要』p,52. (2021/04/02)

Microsoft Corporation

ソフトウェア開発・販売のMicrosoft Corporation(以下、マイクロソフト)は、「内部炭素課金」を用いて、炭素価格を1,800(円/t-CO2)で設定しています。( ※ 1€=120円で換算 )。

マイクロソフトでは、2030年までに自社のカーボンネガティブ達成を掲げており、ICPを導入することで各部門のCO2排出量に応じた資金を収集し、低炭素投資を推進しています。また、自社独自の投資ファンドを設立し、ICPで収集した資金を、脱炭素化に加え、新たな価値の創造にも活用しています。

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要』p,48. (2021/04/02)

日本たばこ産業株式会社

「日本たばこ産業株式会社」では、「限界費用コスト」を用いて、海外たばこ事業の全製造工場ごとに限界費用曲線を作成して、各製造工場で異なる炭素価格を使用しています。自社の目標達成のために、CO2削減効果の高い取り組みから導入することを目的としています。

出典:環境省『インターナルカーボンプライシング(ICP)の概要』p,51. (2021/04/02)

5. まとめ:ICPを導入して、低炭素社会実現の試みを!

ICPを導入することで得られる効果や導入の目的、その手順についてご紹介しました。ICPを導入する企業は、これからもますます増えていくと思われます。

ICPは、組織内での脱炭素への動きを強めるだけではなく、世の中の動向を踏まえた上での行動も容易にします。目的を深く検討した上でICPを導入し、低炭素社会の実現へ寄与していきましょう。

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