紛争鉱物とは?抱える問題と日本および世界の対応

現在、国際社会において紛争鉱物が問題視されています。紛争鉱物とは遠い国の話ではなく、我々にも深く関わる重大な問題であり早急な解決が必要です。では、紛争鉱物に関わる問題とは一体何なのでしょうか。この記事では、紛争鉱物が抱える問題と日本を含めた各国の対応について解説します。

目次

  1. 紛争鉱物とは?

  2. 紛争鉱物がもたらす問題点

  3. 紛争鉱物に関する各国の規制と対応

  4. まとめ:金属取引の裏側に人権問題があることを理解しよう

1. 紛争鉱物とは?

今やなくてはならない製品であるパソコンやスマートフォンを含む電子機器には、タンタルや金、タングステンや錫(すず)などのレアメタルなどの金属鉱物が使用されています。これらの鉱物は、人権侵害などが横行しているコンゴ民主共和国を中心とするアフリカ周辺の紛争が起こっている地域で採掘されていることから紛争鉱物と呼ばれており、現在大きな社会問題になっています。

コンゴ民主共和国では、歴史的にどの政権においても天然資源と人的資源が濫用されており、また強制力によって少数の利益のために開発されてきたとされています。とくに紛争鉱物に該当する鉱物の不法開発によって得られた利益は、コンゴ民主共和国やその周辺国の紛争を長引かせたと考えられており、現在不法採掘鉱物の取引を禁止する動きが広まっています。

出典:資源エネルギー庁「鉱物資源をめぐる現状と課題」p32

2. 紛争鉱物がもたらす問題点

では、紛争鉱物がもたらす問題とは一体どのようなことなのでしょうか。以下で解説する3つの問題点をご確認ください。

(1)紛争の長期化

紛争鉱物で得た資金が武装勢力の手に入ることにより、新たな武器の調達資金に使われるなどは、武装勢力の拡大と紛争の長期化に繋がると危惧されています。紛争が長期化すると罪のない無関係な人々が犠牲になり、また紛争地帯の経済的発展を阻害され貧困から抜け出せないことへの問題にも影響します。これらの理由により、各国は紛争鉱物の禁止に向けた取り組みをはじめています。

(2)人権問題の深刻化

紛争地域で採掘される鉱物は、武装勢力にとって貴重な資金源であり紛争が長期化する要因の1つですが、紛争が長期化するほど人権問題が深刻化しています。鉱物の採掘現場では、拉致された現地民が強制的に働かされており、なかには10歳にも満たない児童が採掘作業や銃を持たされ強制労働者の見張りをさせられているのです。

また、過酷な採掘労働による犠牲者は多く、それでも1日1ドル未満の賃料で働かされているといわれています。ほかにも、武装勢力の現地女性に対する性暴力や人身売買など非人道的な行いが蔓延しているため、人権問題の観点からも紛争鉱物の取引に関する規制が急がれています。

(3)貧困問題の助長

本来、レアメタルや鉱物は高値で取引されるため、鉱物産出国は経済的に発展すると考えられます。しかし、コンゴ共和国をはじめとする紛争地域では、武装勢力が鉱物を独占し、先進国が購入したことで得た資金を武器調達など紛争拡大に使うため、国が財政難に陥り、現地の人々が貧困に苦しんでいるのが現状です。紛争鉱物を購入することが紛争地域の貧困化を助長する点も、国際社会で問題視されています。

出典:日本経済団体連合会「人権を尊重する経営のためのハンドブック」p65

出典:経済産業省「令和2年度産業標準化推進事業委託費」p35

3. 紛争鉱物に関する各国の規制と対応

紛争鉱物が紛争・人権・貧困といった社会問題を招いていますが、国際社会はどのような対応をとっているのでしょうか。ここでは、紛争鉱物に関する各国の規制と対応を解説します。

(1)紛争鉱物に関する国際的なガイドライン

OECD(経済開発協力機構)は、紛争地域で採掘される鉱物に関して、企業が人権を尊重し、 また鉱物採掘活動を通じて紛争に手を貸すことを回避するために、紛争地域で採掘された鉱物のサプライチェーン・マネジメントに関して「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を発表しています。

出典:OECD「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」p5

RMI(旧CFSI)責任ある鉱物イニシアチブは、鉱物取引における監視基準を設け、紛争鉱物でないかの確認や評価を行っています。また、紛争地域からの鉱物の責任ある調達をサポートする調達決定を下す国際的なツールとリソースを参加企業に提供しています。現在RMIには、世界中から400社を超える企業が参加を表明している国際的なリソースです。

出典:日本経済団体連合会「人権を尊重する経営のためのハンドブック」p69

(2)アメリカの規制

アメリカでは、2010年に成立されたドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法において、紛争鉱物の取引における規制が設けられています。具体的な内容は、アメリカ国内の上場企業に対し、製品を製造する過程において紛争鉱物の必要性および使用の有無をSEC(アメリカ証券取引委員会)への報告と企業ホームページへの開示を義務付ける法律です。

紛争鉱物でないことを証明するためには、全ての鉱物の製錬所や精製所を特定し、また精製所等で使用された鉱石や原料の出所を特定しなければいけません。紛争鉱物でないことが証明されるとコンフリクト・フリーと認定されます。この規制により、現在、各国の企業はRMIによるRMAP(責任ある鉱物保証プロセス)で評価された精錬所からの鉱物の調達を推し進めています。

出典:華井 和代「コンゴ共和国における紛争資源問題の現状と課題」p4

(3)EUの規制

EU(欧州連合)は、2021年1月1日付けで紛争鉱物資源の取引規制を開始しています。この規制はアメリカのドッドフランク法と異なり、世界全体の紛争および危険地帯で採掘されるすべての金属鉱物が対象とされています。

主な内容は、紛争鉱物や⾦属のEUへの輸出禁⽌、グローバルおよび EUにおける精錬業者と精製業者が紛争鉱物の使⽤や、鉱⼭労働者に対する虐待の禁止、紛争鉱物の鉱⽯等を紛争地域および、⾼リスク地域から調達するEUの精錬業者や輸⼊業者に対し、調達する鉱物資源が紛争や⼈権侵害を助⻑していないことを確認する事前調査の実施の義務付けなどがあります。

出典:経済産業省「令和2年度産業標準化推進事業委託費」p42

(4)日本の規制

アメリカやEUと違って、日本には紛争鉱物の取引に関する規制はありません。とはいえ、海外で鉱物取引に関する事業を展開している日本企業は、各国の規制に基づいた取引や、RMIへの参加などで紛争鉱物に関する取り組みを行っています。また、JEITA(電子情報技術産業協会)によって責任ある鉱物調達検討会が設置され、紛争鉱物の取引禁止のアピールや紛争鉱物に関するセミナーを実施しています。

出典:華井 和代「コンゴ共和国における紛争資源問題の現状と課題」p42

4. まとめ:紛争鉱物を理解して解決に繋がる取り組みに協力していこう

紛争鉱物にまつわる諸問題と、国内外の対応について解説してきました。普段何気なく使っているパソコンやスマートフォンを製造するために、コンゴ共和国をはじめとする紛争地域で強制的に働かされている人たちがいる事実を理解しなければいけません。

現在、紛争鉱物取引に関する規制は各国でバラつきがあり、取引において苦慮している企業は多いと思いますが、今後金属鉱物の取引規制は強化されると予想されます。国際社会および私たち一人ひとりが自国の問題であると考え取り組むことが、紛争や人権問題の解決に繋がるのではないでしょうか。

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