インクルーシブ・ビジネスとは?企業事例と成功する鍵

近年、国際社会で注目されているインクルーシブ・ビジネスをご存知でしょうか?インクルーシブ・ビジネスは、各国の企業が取り組みを始めている社会問題の解決に繋がるビジネススタイルです。

この記事では、インクルーシブ・ビジネスの意味経済効果に加え、実際の企業事例と成功の鍵について解説しています。インクルーシブ・ビジネスについて詳しく知らない企業さまは、この機会に理解を深めてみてください。

目次

  1. インクルーシブ・ビジネスとは?

  2. インクルーシブ・ビジネスの経済効果と可能性

  3. インクルーシブ・ビジネスの成功事例

  4. インクルーシブ・ビジネスが成功する鍵

  5. まとめ:インクルーシブ・ビジネスは企業にとって重要なビジネスになる!

1. インクルーシブ・ビジネスとは?

国際社会において注目されているインクルーシブ・ビジネスは、一体どのような経営なのでしょうか。

(1)生活品質の向上と地域事業の活性化を目的としたビジネス

インクルーシブ・ビジネス(Inclusive Business)とは、BOP(Base of the Economic Pyramid)に該当する世界の経済ピラミッドの下層部で生活する低所得、困窮層の人々を生産・消費・経営に巻き込むことにより、貧困層の人々の自立および生活品質の向上、また地域事業の活性化等を含め、人権問題や社会問題の解決を目的としたビジネスモデルを指します。

また、社会問題の解決だけではなく、企業においてもビジネス規模の拡大効果が得られるメリットがあります。世界の約40億人にも登る貧困層の人々をビジネスに巻き込むことは、事業拡大と企業価値の向上に繋がると注目されています。

出典:国際金融公社「インクルーシブ・ビジネス」

2.  インクルーシブ・ビジネスの経済効果と可能性

インクルーシブ・ビジネスは、貧困層にいる人々の生活品質の向上や地域事業の活性化だけではなく、企業においても事業拡大の可能性が期待されています。ここでは、インクルーシブ・ビジネスの具体的な経済効果と可能性について解説します。

(1)持続可能性と規模の拡大を達成できるビジネス

現在、世界にいる貧困層の人口は約40億人にも登るといわれており、これだけの人々をビジネスに巻き込むことによって、事業規模の拡大と企業の社会的評価が向上し、持続可能な経営成長が見込まれるとされています。

事実、開発途上国の民間セクター向けの投融資を行っている国際金融公社(IFC)は、インクルーシブ・ビジネスを新興国での大きな成長分野になると捉え、貧困層への直接的な開発効果のある総合的なプロジェクトへの投融資を強化しています。

(2)世界で約5兆ドル(約700兆円)規模の経済効果が期待できる

世界人口の約半数を占める貧困層の人々は、1日の所得がブラジルで3.35米ドル、ガーナで1.89米ドル、インドで1.56米ドル未満と相対的な貧困の中で生活をしています。しかし国際金融公社によると、貧困層全体の家計所得の総額は年間5兆ドル(日本円で約700兆円)に達すると発表しており、潜在的に重要な世界市場の1つに数えられているのです。

これにより、企業は今後BOP市場と呼ばれる貧困層を取り込んだビジネススタイルへ転換することで、将来大きな利益をもたらすと考えられます。また国際金融公社は、インクルーシブ・ビジネスが成功する基本戦略を発表しています。

  • BOP市場に集中

貧困層のニーズに合わせたビジネスの発想に変え、製品開発や技術提供を行い、また投資資金と経営の才能をBOP市場につぎ込むことに集中する。

  • 価値創造のローカライゼーション

保険医療のフランチャイズ方式や、水道等のライフラインを地域社会が運営するシステムを構築するなど、地域社会全体を顧客と位置付ける戦略を取り入れた地元密着型の価値を創造する。

  • 商品あるいはサービスへのアクセス実現

新しい流通戦略および低コスト技術の活用、またターゲットの購買のハードルを下げるための戦略を築く。

  • 斬新なパートナーシップ

エネルギーや水道分野における政府と民間のパートナーシップは一般的ですが、企業とNGOなど、多様な利害関係者との伝統にとらわれない斬新なパートナーシップによって必要な能力を集める。これにより、運輸システムの変革、食品等の流通網の構築と維持、保健医療分野におけるフランチャイズ方式の整備と管理等が進みます。

世界経済において、BOP市場はますます注視されると予想されます。国際金融公社によるBOPビジネスが成功する基本戦略をもとにインクルーシブ・ビジネスに取り組むことが、企業の持続可能な成長に繋がるといえます。

(3)貧困問題の解決に繋げられる

各国の政府や企業が一丸となってBOP市場を分析し、かつ積極的にインクルーシブ・ビジネスを推進することにより、世界中の貧困問題の解決に繋がると考えられています。インクルーシブ・ビジネスは、これまでの経済的支援や物的援助という形ではありません。貧困層の人々をビジネスに巻き込むことにより働く機会を与えることです。

それにより貧困地域の雇用が拡大し、人々の経済的自立化を実現することが可能になります。貧困層が自立化すると、現時点では効果的な解決策が見出せない部分や分野に一層集中することも可能になるため、より世界の貧困問題の解決に繋がると期待されています。

出典:世界資源研究所「次なる40億人」p10

出典:国際金融公社「インクルーシブ・ビジネスの可能性」p1

3. インクルーシブ・ビジネスの成功事例

世界的に注目されているインクルーシブ・ビジネスは、すでに多くの日本企業が取り入れ、また成功しています。具体的な取り組みを中心にインクルーシブ・ビジネスの成功事例を紹介します。

(1)カゴメ株式会社

トマトケチャップで有名な大手総合メーカーのカゴメ株式会社(以下カゴメ)は、インクルーシブ・ビジネスに取り組む日本企業の1社です。

具体的な活動内容は、カゴメは、国際金融公社(IFC)と世界銀行が提唱する新たな市場創造とインクルーシブ・ビジネス実現の可能性をもとに、カゴメがこれまで培ってきたトマトの栽培・加工・流通に関するノウハウをトマトの食文化が根付き、かつ世界有数の貧困地域で知られる西アフリカのセネガルにて、知識および技術支援を行っています。

まず、2016年よりセネガルにおいて、トマト加工市場における投資環境についての情報提供および小規模農家や農協組合の営農から生活するまでの流れを指導するインクルーシブ・ビジネスプロジェクトをスタートさせました。次に2017年には、現地法人Kagame Senegal Sarl(KSS)を設立し、カゴメが保有するトマトの種子や栽培技術などの知見を活用し、加工用トマト栽培事業を展開、現地での安価で高品質なトマト加工品の精度増と供給および、小規模農家の自立を目指した活動を行っています。

将来的には、現地セネガルにてトマト加工品の製造まで事業領域を拡大し、セネガルおよび領域内のトマト加工品市場へ参入するまで、トマトの栽培から加工品の一連のバリューチェーンを開発することを目指しています。カゴメのインクルーシブ・ビジネスの活動に対して、国際金融公社も賛同し支援しています。

出典:国際金融公社「インクルーシブビジネス事例:カゴメ」

(2)味の素株式会社

日本の食品企業である味の素株式会社は、貧困地域である西アフリカのガーナにおいて、食品・バイオファイン・医薬の3つの事業分野を軸にインクルーシブ・ビジネスを展開しています。

主な活動内容として、ガーナの乳幼児の栄養不足や死亡率の高さといった深刻な問題を解決に繋げるために、ガーナ大学や援助機関、国際NGOと協働し、乳幼児に不足しがちな栄養素を補う離乳食用サプリメントの開発援助、さらに現地政府と協力して栄養教育やマーケティングを行っています。

その結果、ガーナ大学などとの協働により、ガーナの伝統的な離乳食であるKOKOに加えると、乳幼児に必要な栄養素が補える「KOKO Plus」の開発を行っています。また、平均日収は1ドル以下とされるガーナの貧困層の人々が購入できる価格帯と購買単位の実現に成功しています。

味の素株式会社の取り組みは乳幼児の健康状態の向上が見られ、また、現地人材の雇用やエンパワーメントへの貢献にも繋がっています。

出典:味の素株式会社「味の素株式会社」

(3)住友化学株式会社

日本の大手総合化学メーカーである住友化学株式会社(以下住友化学)は、東アフリカのタンザニアにおけるマラリアに関する問題の解決をインクルーシブ・ビジネスと捉えて活動しています。

主な活動内容は、マラリア予防に効果がある防虫剤処理蚊帳オリセットネットの現地生産と展開です。

マラリアによる感染症は、先進国ではほぼ撲滅されていますが、タンザニアをはじめとするアフリカでは、貧困および財政難を理由に十分な対策が取られていないといいます。さらに、マラリアに感染することにより、就業や教育の機会を失い、貧困から抜け出せないという悪循環に苦しんでいるのが現状です。

そこで住友化学では、工場の虫除けの網戸に使われていた技術を応用し、防虫剤処理蚊帳オリセットネットを開発。2001年に世界保健機関から長期残効型蚊帳としての効果が認められ、さらに防虫効果が3年間持続することから、現地の貧困に苦しむ人々を経済的な面からも支援しているのです。

また、オリセットネットの製造技術を現地企業に無償で供与し現地生産を行うことで、最大で7000名の雇用機会を創出するなど、貧困地域の生活品質の向上と地域事業の活性化に貢献しています。

出典:住友化学株式会社「オリセットネットを通じた支援」

4. インクルーシブ・ビジネスが成功する鍵

今回はインクルーシブ・ビジネスを取り入れた企業を紹介しました。今後BOP市場とインクルーシブ・ビジネスに取り組む企業は増えると予想されます。インクルーシブ・ビジネスへの取り組みを検討されている企業は、以下のインクルーシブ・ビジネスが成功する鍵をご確認ください。

(1)投資と収益との関係性

インクルーシブ・ビジネスは、投資した貧困地域の成長とともに収益が生じるビジネスです。よって、投資対効果が現れるまで長い期間を必要とすることを考えて置く必要があります。組織内から投資に対する批判があがったり、短期間で撤退して損失を抱える可能性が考えられますので、あらかじめ長期的な視点で目標を設定することが大切です。

(2)現地のインフラ整備

貧困地域は、ビジネスに必要な道路や交通手段、電気や水道などのインフラが整備されていないケースがほとんどです。これにより、事業の開始・継続が難しく、また投資額が上乗せされる可能性も考えられます。

これらの対策として、2014年に国際金融公社によって日本の投資家を対象にインクルーシブ・ビジネス・ボンドが発行されています。現在112億円もの資金が調達されており、積極的にインクルーシブ・ビジネスに取り組む企業に投資するために使われています。

(3)地域との信頼関係の構築

たとえ貧困地域の活性化が目的であろうと、貧困層の中には海外企業に不信感を持つ人は多く、対象地域の住民や企業との信頼関係を構築しなければ、ビジネスの展開および成功は難しいといえます。

事業を展開する前に、住民や企業と積極的にコミュニケーションを図り、お互いの信頼関係を築くことがインクルーシブ・ビジネスを成功させる鍵となります。

出典:国際金融公社「インクルーシブ・ビジネス・ボンド」

出典:国際金融公社「インクルーシブ・ビジネスの成功例」p9

5. まとめ:インクルーシブ・ビジネスは企業にとって重要なビジネスになる!

現在国際社会において貧困や人権などの社会問題への関心が高まり、ビジネスの型も変化を求められています。事実、環境や社会問題に取り組む企業の社会的価値は向上し、また中長期的な成長が見込まれると評価されるESG投資が重視されてきているのです。

インクルーシブ・ビジネスは、貧困問題の解決に加えて、5兆ドルもの経済効果が期待できることから、企業の経営成長および社会経済の活性化にも期待できるといえます。今後さらにインクルーシブ・ビジネスは拡大すると予想されますので、今からインクルーシブ・ビジネスを取り入れた経営スタイルへの転換を検討してみてはいかがでしょうか。

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