生物多様性条約(COP15)とは?2030年国際目標と日本の取り組み

環境問題や人権問題等の社会問題の解決が急がれる近年、世界は人と自然が共生する社会の実現に向けて、各国一丸となって生物多様性に関する取り組みを強化しています。その1つが生物多様性条約(COP15)であり、人と地球の持続可能性の確保に向けた取り決めを行っています。この記事では、生物多様性条約の目的や、生物多様性における2030年国際目標と日本の取り組みについて解説しています。

目次

  1. 生物多様性条約(COP15)とは?

  2. 生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された国際目標

  3. 生物多様性条約(COP15)に基づく日本の取り組み

  4. まとめ:国際社会と協力して生物多様性の損失を防ごう!

1. 生物多様性条約(COP15)とは?

サステナビリティ(持続可能性)が重視される中、生物多様性の損失拡大に危機感を募らせています。それにより、国際社会は生物多様性の損失拡大を食い止め、人と自然が共生する社会を実現するための生物多様性条約会議を2年に一度の頻度で開催しています。

生物多様性条約の目的

生物多様性条約の目的は、人と自然が共生する社会を実現することです。日々の暮らしはもとより、経済活動のすべては自然の恵みで成り立っています。しかし現在、経済活動を優先することによる森林破壊、生態系の崩壊、種の減少や絶滅という生物多様性の損失が拡大しています。

生物多様性条約は、人と自然の共生および、人と地球の持続可能性の確保に向けて、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルでネイチャーポジティブ(自然再興)を目標とし、その実現に向けた基準や方針を取り決める場です。

出典:経済産業省「生物多様性条約」

2. 生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された国際目標

生物多様性条約締約国会議は、概ね2年に一度実施されています。ここでは、2022年12月にカナダ・モントリオールで開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された国際目標を解説します。

(1)「昆明・モントリオール生物多様性枠組」

COP15において、生物多様性に関する2030年世界目標となる昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択されました。内容は、生物多様性の観点から2030年までに世界の陸と海の30%以上を保全する(30by30目標)や循環型社会の促進、また生物多様性を活用したビジネス展開等が目標に掲げられています。

「昆明・モントリオール生物多様性枠組」採択時の様子出典:外務省「生物多様性条約第15回締約国会議第二部等の結果概要」

(2)途上国における生物多様性保全実施のための資源動員

発展途上国における昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施において、新興国による資金支援を目的に、グローバル生物多様性枠組基金の設立が採択されました。各国政府および企業等を含むあらゆる機関から資金確保が想定されており、その詳細を地球環境ファシリティ(GEF)が2023年に決定することが求められています。

(3)遺伝資源に関するデジタル配列情報

COP15では、遺伝子の多様性において遺伝資源の保全や利用に関する利益配分等について議論されました。その結果、生物多様性の遺伝資源に関するデジタル配列情報において、利用に関する利益配分に関する多数国間メカニズムを設置し、他のオプションを含め公開作業部会を設置して次の生物多様性条約締約国会議(COP16)に向けて検討する決定が採択されています。

(4)2023~2024年の条約事務局予算

人と自然が共生する社会を実現するためには、生物多様性条約締約国会議の継続が重要であり、それに係る予算の確保が必要です。COP15では、各国の分担金額および運用方法について議論され、例年通り国連分担率に倣い総予算の72%がCBD、15%がカルタヘナ議定書、13%が名古屋議定書の運用に充てられることが採択されています。

(5)その他

COP15では、過去に採択されたカルタヘナ議定書締約国会合(MOP10)名古屋議定書締約国会合(MOP4)の進展に係る評価や生物多様性の主流か、レビューメカニズムの導入等の生物多様性に関する幅広い事項について議論がされました。

【カルタヘナ議定書】

カルタヘナ議定書および補足議定書に関する実施計画・能力構築行動計議定書のモニタリング・報告、議定書の際評価および再検討、また名古屋・クアラルンプール補足議定書の責任と補償等に関して議論されました。

【名古屋議定書(愛知目標)】

 能力構築・開発の支援措置、遺伝資源及び関連する伝統的知識の重要性に関する普及啓発措置、アクセス及び利益配分に関する情報交換センターおよび情報共有等に関して議論されました。

出典:外務省「生物多様性条約第15回締約国会議第二部等の結果概要」

3. 生物多様性条約(COP15)に基づく日本の取り組み

COP15で採択された国際目標を解説しましたが、人と自然の共生に向けて、日本はどのような取り組みをしているのでしょうか。ここでは、COP15に基づく日本の具体的な取り組みを解説します。

(1)生物多様性条約COP15に向けた取組

日本政府は、COP15で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組に基づき、様々な取り組みを行っています。以下は、日本の生物多様性条約に関する主な取り組みです。

【30by30・OECM・NbS】

COP15で採択された2030年までに世界の陸と海の30%以上の保全に向けて、国立公園や国定公園の拡張および、保護地域外の生物多様性を効果的かつ長期的に保全しうる地域(OECM)の拡大を図る活動に取り組んでいます。それに伴い、2023年度から自然共生サイト(仮称)の正式認定を開始し、健全な生態系をベースとした生物多様性保全と気候変動対策・防災減災対策等を推進しています。

【ビジネスでの生物多様性の主流化】

日本政府は、30by30目標の達成に向けて民間企業等によるOECM認定申請を推進し、サプライチェーン全体で生物多様性に与える負荷を低減、また国際ルールに基づいた企業の情報開示を指導・強化しています。これにより、自然環境の保護だけではなく、日本経済の活性化が期待できます。

出典:環境省「生物多様性に係る主な動きについて」p2

(2)生物多様性国家戦略

日本政府は、COP15で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組の達成に向けて、生物多様性国家戦略を策定しています。生物多様性国家戦略とは、生物多様性条約および生物多様性基本法に基づき、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する5つの基本戦略を設定し、それに伴う活動の促進を目的としています。

【5つの基本戦略】

  1. 生物多様性を社会に浸透させる

  2. 地域における人と自然の関係を見直し再構築する

  3. 森・里・川・海のつながりを確保する

  4. 地球規模の視野を持って行動する

  5. 科学的基盤を強化し政策に結びつける

生物多様性国家戦略は、日本の持続可能性を確保する重要戦略に位置付けられ、生物多様性国家戦略を基本とした取り組みが活発に行われています。

出典:環境省「生物多様性国家戦略」

(3)多様な主体の参画

日本政府は、生物多様性の保全と持続可能な利用の確保に向けて、生物多様性国家戦略をもとに、国・地方公共団体、事業者、国民および民間団体といったあらゆる主体の参画との連携を促進しています。これにより、生物多様性の重要性が社会全体に浸透し、その活動が強化されると期待されています。

その他、多様な主体が生物多様性の保全等に取り組むための新たなプラットフォームの設立、地域における生物多様性の保全活動の促進等に関する法律や各種支援を行っています。

(4)生物多様性に配慮した企業活動の推進

日本政府は、人と自然が共生する社会の実現に向けて、企業に生物多様性に配慮した事業活動を推進しています。また、業種や事業者向けに生物多様性民間参画ガイドラインを制作し、その普及を図るとともに表彰制度の活用や生物多様性に対する貢献・負荷・依存度の把握・評価に関する情報提供を行う活動を強化しています。

(5)自然とのふれあいの推進

日本政府は、社会全体への生物多様性の浸透を目的に、自然とのふれあい関連行事の全国的な実施や各種情報の提供、および自然公園指導員・パークボランディアの人材活用等など、環境教育や自然体験活動に取り組み、また強化しています。その他、国立公園満喫プロジェクトの継続的実施による国立公園の保護と利用で地域の活性化を目指すなど、民政が一体となって自然資源の保全活動に取り組んでいます。

出典:環境省「生物多様性の主流化に向けた取組の強化」

4. まとめ:国際社会と協力して生物多様性の損失を防ごう!

私たちの生活を支えている地球は、現在崩壊の一途を辿っています。生物多様性の損失は、人間社会の崩壊を意味し早急に解決すべき課題です。世界各国が地球の危機を認識し、それに関する情報を共有するために生物多様性条約締約国会議をはじめとする機会を増やすことが生物多様性の損失を食い止め、また自然の回復に繋がるといえます。人と地球の持続可能を確保するために、一人ひとりが日々の生活から自然に配慮した行動を心がけましょう。

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