生物多様性とは?重要性と社会経済および企業に与える影響を解説

国際社会は、持続可能な社会の実現に向けて多様化するサステナビリティ課題の解決に取り組んでおり、その内のひとつが生物多様性です。生物多様性に関する問題は、私たち人類の生活に深く影響するため、早急に解決する必要があります。この記事では、生物多様性の主な問題や、生物多様性が社会に与える影響を中心に解説しています。

目次

  1. 生物多様性とは?

  2. 生物多様性の主な問題とは

  3. 生物多様性の損失は社会経済に影響する

  4. 生物多様性社会の実現に向けた取り組みとは

  5. 生物多様性と企業との関連性は

  6. まとめ:生物多様性を守って自然とうまく共生しよう!

1. 生物多様性とは?

地球上のすべての生物は、それぞれが直接的・間接的に干渉し支え合って生きています。とくに私たち人類の暮らしは、自然の恵みで成り立っているのですが、現在の地球環境は、気候変動や絶滅危惧種の増加といった多様な問題を抱えており、このままでは人類はおろか、地球そのものの存続に対して警鐘が鳴らされています。

それに歯止めをかけ、また持続可能な地球・社会を実現するため、国際社会は、生物多様性を生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルから考え、自然環境と人類の豊かな暮らしの保護に向けて活動しています。

出典:環境省「生物多様性とはなにか」p1

2. 生物多様性の主な問題とは

人類の暮らしと密接に繋がる自然環境は、現在深刻な問題を抱えています。それにより、国際社会は生物多様性の重要性を唱えているのですが、一体どのような問題を抱えているのでしょうか。ここでは、生物多様性の主な問題を紹介します。

(1)自然環境の破壊

私たち人類の暮らし、それに伴う土地開発等により森林は減少し生態系は破壊されています。経済発展が優先されたことにより社会における生物多様性に対する認識は薄く、自然界の生物を食料・観賞用・園芸目的で採取した結果、生物種の減少や絶滅、分断や劣化を通じた生息・生育環境という自然環境の破壊をもたらしています。

現在は、以前に比べて環境破壊は抑えられていますが、今後もある程度の土地開発や動植物の採取は必要です。生態系および動植物への負荷を回避および低減する活動が急がれています。

(2)自然に対する働きかけの縮小

経済発展に伴う生活様式の変化、また高齢化の進行等でみられる社会や経済状況の変化によって人類の自然に対する働きかけは縮小し、それによる種の生息や生育環境が失われつつあります。本来あるはずのない場所に動植物が侵入し、もといた動植物が減少・絶滅しているのです。

(3)外来種による生態系バランスの崩壊

近年、外来種による生態系のバランスが崩壊しつつあります。ペットや観賞用で持ち込まれた外来動植物が人の身勝手な理由で自然界に放たれ繁殖し、本来の生態系を壊し、固有種や在来種の存続の危機が危ぶまれているのです。

また、外来種だけではなく、人類が作り出した化学物質による影響も含まれます。現在、積極的に外来種の駆除活動は行われていますが、完全な駆除は難しいとされています。元の生態系に戻す取り組みを活発化し、また外来種の導入ルールを整備しなおす必要性があると考えられています。

(4)地球温暖化を含む気候変動の影響

地球温暖化を含む気候変動問題は、近年、国際社会で解決が急がれています。生活様式の近代化、経済および産業構造の発展において、地球の温度は上昇を続け、気候変動問題や生息・生育環境の変化、動植物の減少や絶滅を招いています。

地球温暖化の原因は、人類が放出する温室効果ガスの増加によるものと断定されており、現状のままではさらに地球温暖化が進み、約20〜30%動植物の絶滅リスクが高まると報告されています。世界的にCO2排出規制等に取り組まれていますが、1人ひとりが地球温暖化がもたらすリスクを認識し、それに伴う行動を取る必要があるといえます。

alt属性:人間の活動による生物多様性の危機

出典:環境省「2010年に向けて加速する生物多様性の保全及び持続可能な利用への世界と日本の潮流」p1

3. 生物多様性の損失は社会経済に影響する

生物多様性の主な問題を紹介しました。自然環境および動植物は、人類の暮らしに欠かせない存在です。一人ひとりが自然環境のリスクを認識し活動していかなければ、生物多様性の損失は拡大し、社会経済に大きな影響を及ぼすと考えられます。

人類が受ける自然の恵みを生態系サービスと呼び、基盤サービス・供給サービス・文化的サービス・調整サービスの4つのグループに分けられおり暮らしや経済活動は直接的・間接的に生態系サービスの恵みを受けると同時に生物多様性に影響を与えているのです。

例えば、気候変動により食物が育たなくなると、農家をはじめ、輸送業界や飲食業界に影響します。その結果、価格の高騰で個人消費および社会経済全体が落ち込んでしまうのです。このように、生物多様性の損失は社会経済に大きな影響を与えます。

TEEBにおける生態系サービスの分類

出典:環境省「生物多様性と経済活動」p1

4. 生物多様性社会の実現に向けた取り組みとは

自然環境の保護はもちろんのこと、社会経済への影響を回避するために、国際社会において生物多様性社会の実現に向けた取り組みがはじまっています。ここでは、国際社会に加えて、日本が独自に行っている生物多様性に関する取り組みを紹介します。

(1)国際的な取り組み

国際社会では、概ね2年に一度の頻度で国連生物多様性条約(COP)を開催し、生物多様性に関する課題の議論および条例の取り決めを行っています。最近では、2022年に開催されたCOP15においてポスト2020生物多様性枠組みが決定され、世界全体の30%にあたる保護地域の希少種保全、外来種防除の対策強化が合意されました(30by30)。その他、経済活動におけるサプライチェーン全体での生物多様性保全に対する悪影響を半減することが盛り込まれています。

出典:環境省「生物多様性に係る主な動きについて」p6

(2)日本の取り組み

日本は、生物多様性社会の実現に向けた取り組みとして、国際関係における取り組みの他、日本独自の取り組みを行っています。

【国際関係との取り組み】

日本は、上記で紹介したCOP15で合意されたポスト2020生物多様性枠組み目標の達成に向けて、民間企業等による保護地域以外で生物多様性保全に資する地域設定を重視し、自然共生サイトとして認定する仕組みを検討しています。

また、生物多様性・自然資本の見える化(指標化)等を支援するネイチャーポジティブ経営に向けたガイドラインや事例集の作成や、指標化や経営課題への組み入れを促進する取り組みを行っています。

【国内での取り組み】

国内においては、人と自然との共生懇談会の実施や、生態系サービスの経済的価値の評価、生態系サービスの受益者が必要な対価を負担する仕組み(PES)について検討しています。その他、全国エコロジカルネットワークの構想など積極的に取り組んでいます。

出典:環境省「生物多様性・みんなの取り組み」p1

5. 生物多様性と企業との関連性は

ここまで、生物多様性が社会経済に欠かせない要素であることを解説してきましたが、とくに経済活動を行う企業にとって重要な問題といえます。ここでは、生物多様性と企業との関連性について解説します。

(1)中長期的な成長の促進

環境や社会問題に対する国際的な危機感の高まりを受け、2006年に国連は投資家や株主に対して、投資先企業を選ぶ際にサステナビリティ(ESG)要素を組み込む責任投資原則(PRI)を提唱しました。これにより、企業は自社の価値向上および持続的な成長を遂げる上で、生物多様性をはじめとするサステナビリティ活動が重要になっています。

(2)企業の社会的価値の向上

生物多様性を含めサステナビリティ活動に取り組む企業は、機関投資家や株主だけではなく社会的にも評価され、さらなる企業価値の向上に繋がります。今後は中小企業においても生物多様性を含めたサステナビリティが重視されるため、身近なところから生物多様性社会の実現に向けた取り組みをはじめることが大切です。

出典:環境省「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書・世界で進むPRIへの署名とESG投資」p1

6. まとめ:生物多様性を守って自然とうまく共生しよう!

生物多様性と人類の暮らしは密接な繋がりを持ち、決して切り離すことができません。近年、国際社会において生物多様性が重視されつつありますが、まだ個人には生物多様性の重要性が行き届いていないと思われます。

このままでは、取り返しがつかないレベルまで環境破壊が進むことに繋がります。各国のリーダーおよび企業が先頭に立ち、一人ひとりが生物多様性の重要性を理解して、自然とうまく共生することが大切といえるのではないでしょうか。

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