労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)とは?特徴とシステム導入の流れ

厚生労働省は、国内企業に対して断続的かつ組織的な労働安全管理を求めています。これにより、法令をもとに自主的な労働安全管理に取り組む企業が増えつつありますが、労働安全管理の具体的な取り組み方が定まっていない企業が一定数いるのも事実です。

この記事では、労働安全衛生マネジメントシステムの特徴と目的、およびシステム導入の流れを詳しく解説します。経営者の皆さまは、安全衛生管理への理解を深めることでより良い職場環境の構築に繋げてみてください。

目次

  1. 労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)とは?

  2. 労働安全衛生マネジメントシステムの特徴

  3. 労働安全衛生マネジメントシステム導入の流れ

  4. 労働安全衛生マネジメントシステムの効果

  5. まとめ:労働安全衛生マネジメントシステムの導入を検討しよう

1. 労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)とは?

厚生労働省は、企業に労働安全管理の徹底を唱えています。そこで取り入れられるシステムが、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS=Occupational・Safety and・ Health ・Management・System)です。OSHMSは、企業が職場の安全衛生水準の向上を図るために行う自主的な安全衛生管理の仕組みを指します。

労働安全衛生マネジメントシステムの目的

OSHMSの目的は、企業が労働者の協力のもとPDCA(Plan=計画、Do=実施、Check=評価、Act=改善)という一連の過程を定めて自主的な安全衛生管理を進め、労働災害の防止と労働者の健康増進、および働きやすい職場環境づくりと継続的な取り組みを目的としています。

労働安全衛生マネジメントシステム制定の背景

OSHMSは、品質マネジメントシステムや環境マネジメントシステムと同様に国際的なマネジメントシステムの必要性が提唱されたことで、OSHMSには「ISO45001」という国際規格が存在します。

また、ILO(国際労働機関)においてOSHMSに関する指針が策定されたことにより、日本でも厚生労働省から労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針が示されています。

出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステム」(2019/07/01) p5

2. 労働安全衛生マネジメントシステムの特徴

OSHMSは、上記で述べたPDCAサイクルを中心に安全衛生水準の向上に取り組むことです。それを踏まえて、OSHMSの特徴は以下のものが挙げられます。

安全衛生管理と事業運営を一体化して取り組める

OSHMSは、経営トップによる安全衛生方針の表明や役割、責任や権限のあり方を明確に定めた体制を整備して、断続的なシステム監査にてシステムの有効性の確保とシステム運用の見直しが求められます。またOSHMSの運用にあたって、従業員の意見を反映させることが組み込まれていることから、安全衛生管理と事業運営を一体化して取り組むことができます。

安全衛生に対する従業員の意見を反映することで組織的に取り組める

OSHMSの基本方針として、従業員の意見を反映することが組み込まれています。経営側だけではなく、従業員と一丸となって組織的・全社的に安全衛生の運営に取り組むことができます。

事業者で確立した安全衛生管理が継承される

OSHMSは、企業で確立した安全衛生方針を明文化し、また記録することとされています。これらの記録は安全衛生活動の確実な実施と、そのノウハウが継承されることに役立ちます。システムの確立と明文化、および記録の保存を重視するのは、OSHMSの大きな特徴です。

未然に労働災害を防ぐことができる

OSHMSでは、労働安全衛生法第28条に基づく指針に従って、危険性または有害性などの調査を行い、その結果に基づいて労働者の危険または健康障害を防止するために必要な措置をとるための手順を定めることとしています。これにより、労働災害の予防に繋がります。

出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステム」(2019/07/01) p2

3. 労働安全衛生マネジメントシステム導入の流れ

ここまで、OSHMSの意味や特徴を解説してきました。安全衛生管理の運用は、経営を支える従業員の健康増進および労働災害の予防に繋がる重要な取り組みといえます。この章では、企業が労働安全衛生マネジメントシステムを導入する流れについて説明します。

(1)経営トップが社内全体にOSHMSの導入を宣言する

労働安全衛生マネジメントシステムは、OSHMSに関する厚生労働省の指針に従って取り組むことが求められます。まず第一に行うべきことは、経営トップによるOSHMSの導入を社内全体に宣言することです。それにより、経営陣・従業員の安全衛生に関する意識が統一され、全社一丸となってOSHMSを推進していく機運を高めることに繋がります。

(2)OSHMSを運用する体制を整える

経営トップによるOSHMSの導入表明後は、OSHMSの構築および効果的に運用するための体制を整えます。まず安全衛生推進部署を設け、システム各級管理者・リスクアセスメント担当者・内部監査者など必要な担当者を選任します。

これらは、安全衛生管理の運用を円滑に行うのみならず、確立した安全衛生方針の明文化と保存および管理を適切に行い、そのノウハウを継承するために必要な整備です。また、安全衛生管理に関する従業員への研修やOJT、さらに人材育成も行います。

(3)現在の安全衛生管理と活動状況の把握とOSHMSの構築をする

OSHMSの導入体制が整った後は、OSHMSを構築するための現在の安全衛生管理と活動状況を把握します。社内および各部署で実施している安全衛生管理および活動に関する規定類や記録、活動実績、従業員への聞き取りから得た情報をとりまとめ、厚生労働省の指針と比較します。比較した際に不足している事項があれば補いつつ、企業独自のOSHMSを構築していきます。ここで構築するOSHMSは、事業運営の基盤となるため重要といえます。

(4)安全衛生方針に基づいた目標の設定と安全衛生計画を作成する

現在の安全衛生管理および活動実績をもとに、厚生労働省の指針に沿って従業員(労使)と話し合いを行い、安全衛生目標の設定と安全衛生計画を作成します。

またOSHMSは、断続的なシステム監査にてシステムの有効性の確認がなされ、安全衛生水準の向上を図るために随時システム運用の見直しがされます。したがって、実現可能な範囲で、評価がしやすいように数値で示すといいのではないでしょうか。

(5)OSHMSの運用を行う

上記の④で作成した安全衛生計画および目標は、適切かつ継続的に運用を行います。システム運用を実施する中でシステム監査が入り、目標の達成度や活動の効果が評価されます。OSHMSの導入を表明した経営トップが積極的に取り組み、従業員の安全衛生管理に対する意識を高めることが大切です。

出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステム」(2019/07/01)p4

4.労働安全衛生マネジメントシステムの効果

企業がOSHMSを導入することで、その効果はあるのでしょうか?ここでは、2019年7月1日に厚生労働省が発表した「労働安全衛生マネジメントシステム」およびJISHA中央労働災害防止協会の公式ホームページを参考に、安全衛生管理の導入で得られる効果を解説します。

労働災害が減少する

厚生労働省は、2003年から開始した中央労働災害防止協会が認証するJISHA方式適格OSHMS認証を取得した企業の労働災害の発生推移を公表しています。

それによると、OSHMS認証開始前と比べて、OSHMS認証を取得した企業が増えるにつれて労働災害が減少する傾向が見られています。認証後13〜15年OSHMSを運用している事業場の千人率(休業1日以上)は、全産業の千人率(休業4日以上)の5分の1となっています。

出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステム」(2019/07/01) p3

安全衛生水準が上がる

中央労働災害防止協会および製造業安全対策官民協議会が実施した安全衛生水準に関するアンケート調査によると、OSHMSを導入したことによって「明らかに安全水準が向上した」「向上した」の割合が93%を占めたことを受け、OSHMSに安全衛生水準の向上に効果があることを報告しています。

安全衛生計画と目標を立てるまでに、経営トップの表明、運営部署の設立および安全衛生の調査、従業員への聞き取りなど、細かく段階を踏んで構築したシステム運用だからこそ、高い確率で労働災害の防止に繋がるといえます。

出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステム」(2019/07/01)p3

安全衛生管理が持続する

OSHMSは、推進部署により明文化および記録の保存を行います。これは、OSHMSのノウハウを継承するためであり、安全衛生管理が持続することを意味します。また、専任の監査者が目標に対する進捗や結果をもとに、適時システム運用の見直しを行います。それにより、自社の安全衛生水準のさらなる向上に繋がるため、労働災害が少なく、従業員にとって安心・安全に働ける環境を維持することができるのです。

出典:厚生労働省「労働安全衛生マネジメントシステム」(2019/07/01)p8

5. まとめ:労働安全衛生マネジメントシステムの導入を検討しよう

労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の特徴やシステム導入の流れを中心に解説しました。経営者は、従業員を守る責務があり、また労働災害が発生することによって、世間からの企業評価は大きく変わります。

現代は、従業員の安全衛生面が重視される時代になっています。まだ安全衛生管理面が不完全と認識されている企業さまは、OSHMSの導入および見直しを行なって、素晴らしい職場環境を目指していきましょう。

 

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