欧州(EU)のCO2排出削減規制の内容と企業への影響

世界各国がCO2排出規制に取り組む中,欧州(EU)は特にCO2規制において世界をリードしています。この記事では、欧州が掲げるCO2排出量の削減目標「Fit for 55」から,欧州連合のCO2排出規制の内容と現状,企業に与える影響についてわかりやすく解説します。

目次

  1. 欧州が掲げるCO2排出量の削減目標「Fit for 55」とは

  2. 欧州のCO2削減に関する主な規制

  3. 欧州のCO2規制で企業が受ける影響

  4. 欧州のCO2規制による企業の現状

  5. まとめ:欧州のCO2規制は世界に影響を与える!今からCO2削減に向けて取り組もう

1. 欧州が掲げるCO2排出量の削減目標「Fit for 55」とは

CO2排出規制において世界をリードしている欧州連合は、現在「Fit for 55」という目標を掲げています。ここでは、Fit for 55について詳しく解説します。

(1)Fit for 55を目標に掲げた背景

気候変動問題が顕著化する中で、各国は温室効果ガス削減に向けて取り組みを始めています。欧州は、2017年に欧州機構法案を欧州理事会で採択・法定化するとともに、2030年と2050年のCO2排出量削減目標を達成するためにFIt for 55という政策パッケージを提案しました。その後、2020年にはFIt for 55の主要目標であるCO2削減量を1990年比で55%以上へと引き上げ、2021年7月に欧州気候法およびFit for 55を法定化しています。

出典:国立国会図書館・海外立法化「【EU】温室効果ガス削減政策パッケージ「Fit for 55」の公表」p1

(2)Fit for 55の具体的な内容

欧州はFit for 55の法定化をはじめ、積極的にCO2削減に向けて取り組んでいることもあり、2018年度のCO2排出量は1990年比で22%の削減に成功しています。

主な国別エネルギー起源CO2排出量の推移

出典:環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量(2018年)」p5

欧州を除く、日本やアメリカ、中国においてはCO2排出量が増えている状況をみると、いかに欧州のCO2削減に対する意識の高さと、それに伴った規制や取り組みが進んでいるかがわかるのではないでしょうか。また、以下は欧州のCO2削減に向けて提案されたFit for 55の具体的な内容です。

Fit for 55の主な内容

  1. 排出量取引の強化

  2. 再エネの導入目標引上げ

  3. エネルギー効率化目標の引上げ

  4. 2035年以降のガソリン車の新車販売禁止

  5. 充電インフラや水素インフラの整備

  6. 持続可能な航空・海運燃料供給

  7. エネルギー税を数量ベースから熱量ベースに変更

  8. 炭素国境調整措置の導入

  9. 欧州内のガスを天然ガスから水素やバイオガスに移行するためのルール改正や域内ガス市場の共通ルール指令改正案

  10. エネルギー部門から排出されるメタンガス削減の新規則案

  11. 建物エネルギー性能指令の改正案

  12. DACCS等のCO2除去技術を認証する制度構築

このように、気候・エネルギー・輸送・課税など広範囲な政策分野が対象となっており、また再生エネルギーの利用を促進するために、電気自動車の導入やグリーンインフラといった大規模な研究開発および設備投資を伴う分野が設定されています。これにより、今後さらに欧州の2050年度CO2排出量ゼロの実現に向けた取り組みは進むと考えられます。

出典:資源エネルギー庁「第1節 脱炭素を巡る世界の動向」p1

2. 欧州のCO2削減に関する主な規制

Fit for 55をはじめ、欧州のCO2削減に向けた取り組みは世界をリードしています。日本がCO2削減目標を達成するためにも、現在欧州で施行されている主なCO2削減規制を解説します。

(規制1)国境炭素調整メカニズム(CBAM)規則案

欧州委員会は、欧州グリーンディール政策と2030年目標の強化、およびカーボンリケージの回避を目的に、気候変動規制が緩い国への移転する企業や、対象国からの輸入品を増加する企業に対して炭素税を課しています。

(規制2)代替燃料の設備整備規則案

欧州では、CO2削減策の1つとしてガソリン車から排出されるCO2削減に注力しています。欧州においては、2035年までにガソリン車の新規販売が禁止になるため、EV車やPHV車の新規開発および利用拡大を目的に、化石燃料に変わる代替燃料の利用促進において、充電設備整備に関する最低基準を設定する代替燃料の設備整備規則案を施行しています。

(規制3)ReFuelEU規則案

欧州は、航空機から排出されるCO2削減対策として、ReFuel EU規制案を施行しています。EU加盟国の空港で供給される航空燃料にe燃料で知られる合成低炭素燃料の含有量を持続可能な航空燃料の最低割合を設定し、また2025年以降段階的にe燃料の含有量を増やす規制です。

(規制4)FuelEU規則案

ReFuelEU規則案と同様に、EU連合国内の港に寄港する船舶のエネルギーにおけるCO2排出量に上限を設定したFuelEU規則案があります。CO2排出量の削減はもとより、持続可能な海洋燃料やCO2排出ゼロに向けた技術の開発および導入を促進しています。

(規制5)社会気候基金

欧州は、2030年・2050年のCO2排出ゼロに向けた規制・制度を数多く新設することにより影響を受ける市民や企業への支援を考え、社会気候基金を創設しています。社会気候基金は、EU加盟国に資金提供を募り、インフラ整備やCO2を排出しない冷暖房システムの設置等に使用されます。

出典:資源エネルギー庁「地球温暖化・資源循環対策等に資する調査委託費(国境調整措置に係る調査・分析)」p7

出典:国立国会図書館・海外立法化「【EU】温室効果ガス削減政策パッケージ「Fit for 55」の公表」p2

3. 欧州のCO2規制で企業が受ける影響

欧州の積極的なCO2削減に関する規制の新設により、着実にCO2排出量は削減されています。しかし欧州のCO2排出規制により、幅広い分野で各国の企業が影響を受けると予想されます。ここでは、欧州のCO2規制で企業が受ける影響を解説します。

(1)CO2を排出しない技術開発および投資額の増大

欧州をはじめ、国際社会はカーボンニュートラルの実現に向けた規制を強化しています。それにより、各分野において各企業はCO2を排出しない技術開発が急がれています。とくに、CO2排出削減が困難な部門である鋼鉄・石油化学・自動車・石油等では、技術開発や導入に多大な投資が必要とされ、一部企業においては数兆円規模の資金が必要とされる点も課題とされています。

CO2削減規制は、大手企業のみならず中小企業にも適用されます。資金力の弱い中長期業にとっては大きな課題であり、技術開発および資金調達に関する対策において、政府が提供するCO2削減のノウハウを参考にするなど、早急に取り組む必要があるといえます。

出典:資源エネルギー庁「第3節 2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組」p1

(2)製品管理の厳格化

欧州のCO2削減規制の1つである炭素国境調整措置において、企業は製品の製造過程の投入原材料に含まれるCO2排出量および、生産する際に放出された温室効果ガスに対して、課税または排出量取引制度において支払われた金額を請求されることが提案されています。これにより、企業の製品管理体制は厳格化する必要に迫られると予想されます。

出典:環境省「欧州委員会における炭素国境調整措置等の検討について」p3 p4

(3)情報開示の強化

欧州は、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みを強化するにあたり、持続可能な金融推進のためのアクションプランの一環として、EUタクソノミーを策定しています。EUタクソノミーは、欧州において提供する金融商品や投資対象となる事業活動が欧州のサステナビリティ方針の基準に適合しているかを判断するために、企業および金融機関の情報開示を義務付ける規制です。これにより、企業は欧州のCO2削減規則に沿った取り組みを強化し、適時サステナビリティ情報を開示する必要があります。

出典:資源エネルギー庁「第1節 エネルギーを巡る情勢の変化」p1

4. 欧州のCO2規制による企業の現状

ここまで、欧州のCO2削減目標や規制について解説してきました。2050年のCO2排出ゼロに向けて、より一層規制を強化し企業への影響は大きくなると予想されます。では、CO2規制による企業の現状はどうなのでしょうか。CO2削減において最も注力されている自動車メーカーを例に紹介します。

(1)ダイムラー:メルセデス・ベンツ

ドイツの高級自動車メーカーであるダイムラー(メルセデスベンツ)は、欧州のCO2規制強化に伴い、投資家およびアナリストを対象にしたESG会議において、2030年までに乗用車1台あたりのCO2排出量を2020年比で半分以上削減することを発表しています。

材料の調達から製造過程におけるCO2排出量を削減するにあたり、CO2を排出しない鋼鉄技術や電池技術の改善、また再生可能エネルギーの購入を促進することで、生産におけるエネルギー使用量の70%以上を再生可能エネルギーで賄う計画を立てています。

出典:日経クロステック「メルセデス・ベンツ、2030年までに乗用車の生涯CO2排出量を半減」p1

(2)フォルクスワーゲン

メルセデスベンツに並んで人気のドイツ車で知られるフォルクスワーゲンは、2020年において欧州のCO2規制が未達成であることを理由に、約200億円もの罰金が課せられました。その後、パリ協定および欧州グリーンディルの目標を遵守するための「Way to ZERO」を掲げ、CO2削減に取り組んでいます。

具体的な目標と活動内容は、2030年までにCO2排出量を2018年度比で40%削減することを目標に掲げ、電気自動車の生産拡大および、自動車生産過程におけるCO2排出量の削減、再生エネルギーの使用促進やバッテリーのリサイクルに取り組んでいます。

出典:日本経済新聞「独VW、EUの新CO2規制クリアできず 罰金200億円弱か」p1

出典:フォルクスワーゲン「Way to ZERO 包括的戦略」p1

(3)トヨタ自動車株式会社

日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社は、2050年欧州のCO2排出量ゼロにおける規制強化を受け、2035年以降欧州で販売する新車を全てCO2を排出しないEV車やZEV車にすると発表し、材料の調達から部品および車両の製造過程において、CO2を排出しない新たな技術開発に総額8兆円を投資するなど、実現に向けて取り組んでいます。

出典:経済産業省「カーボンニュートラルと国際的な政策の動向及び 企業への影響」p10

5. まとめ:欧州のCO2規制は世界に影響を与える!今からCO2削減に向けて取り組もう

世界的にCO2削減が求められる中、欧州は数々の規制を設けて着実にCO2排出量を削減しています。今後はより一層規制を強化すると予想されますので、欧州で事業活動される企業は、欧州政府の動向を把握しCO2削減に取り組む必要があるといえます。

また、日本政府もCO2削減の規制を強化しています。CO2削減に向けた知識や技術開発、それに伴う投資は大きいため、中小企業の経営者さまは、早い段階で情報を把握してCO2削減に取り組む必要があるのではないでしょうか。

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