具体例からみるESGのガバナンスが注目されている理由とは?

近年、国際的に注目されているESGは、今後さらに企業経営において重要視されると考えられます。とはいえ、ESGのガバナンスの理解が難しいというのも現状です。そこで今回は、具体例をもとにESGのガバナンスが注目される理由と、ガバナンスにおいて企業が取り組むべきことを中心に解説します。

目次

  1. ESGのガバナンスとは?

  2. ESGにおけるガバナンスの意味

  3. ガバナンスに取り組む企業の具体例

  4. まとめ:自社のガバナンスを見直そう!

1. ESGのガバナンスとは?

ガバナンスとは、近年国際的に重視されているESGにおける事項の1つです。実際に、ESG投資・ESGガバナンスなどのキーワードを目にする機会が増えていると思います。そもそもESGとは、環境・社会・企業統治を考慮した経営および投資活動を意味します。国際社会が直面している気候変動問題や人権問題など、社会問題の解決に取り組んでいる企業こそが投資家から長期的かつ持続的な経営成長が見込まれると判断されるのです。

また以下は、ESGに配慮した取り組みを行うことで得られる企業のメリットです。

・企業の持続的な成長に繋がる

・企業の社会的価値が上がる

・投資家に選ばれる企業になり利益拡大に繋がる

今後は、ガバナンスの重要性がさらに拡大する見通しです。今からESGの理解を深めて、企業運営に取り組む必要があるといえます。

出典:財務省:「ESG投資について」p7 p8

2. ESGにおけるガバナンスの意味

ESGとは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス/企業統治)の頭文字をとった言葉ですが、Gのガバナンスはどのような意味を持つのでしょうか。

ガバナンスを直訳すると、統治・支配・管理です。ESGにおけるガバナンスは、企業統治の意味を持ち、企業の透明性や健全性を高め自己管理体制を整えることを指します。これほど社会経済においてガバナンスが叫ばれるのは、大きく2つの理由があるといわれています。

(1)国際社会において環境問題や社会問題が深刻化し早急な解決が急がれているため

国際社会における環境問題や社会問題は、早急な解決が必要であり世界規模で関心が高まっています。実際に、日本政府が策定したスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードにおいても「機関投資家が投資先企業の中長期的な価値向上を図るために企業の状況を把握するに当たり想定し得る着眼点」という指針の一部に、投資先企業のガバナンスに加え、社会や環境問題に関連するリスクが含まれています。

したがって、これらの問題に取り組む企業の社会的評価は向上し、経済的にも持続可能な成長が見込まれると判断されはじめています。

(2)株主に対する利益の還元を最大化するため

近年、社会経済においてESGは重視されています。上記で解説しましたが、日本政府が策定したスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードにおいて機関投資家は投資先企業の中長期的な価値向上を図るために企業の状況を把握する必要性を唱えています。

これまでの機関投資家は、企業の財務状況を中心に投資先を選ぶ傾向がありましたが、現在は企業の財務状況に加えて、社会や環境問題へ取り組む企業こそ投資効果があると判断されつつあり、また企業に対して非財務情報(企業の価値観や戦略など)の開示が推進されています。

このところ不正会計や不適切営業など企業の不祥事が取り沙汰されていますが、不正を起こした企業の価値は下がり、持続可能な成長に期待はできなくなるといえます。ましてや、投資した企業が不正を起こせば、投資家にとって不利益に繋がります。

株主は、事前活動で企業に投資をしているわけではなく、最大の利益を得るためです。よって機関投資家は、社会や環境問題に取り組み、なおかつコーポレートガバナンスを構築し、透明性かつ健全な経営を行う企業を求めているのです。

今後国内においてガバナンスに取り組む企業が増えると予想されますが、まだガバナンスに関する定義があるわけではありません。それにより、ガバナンス含めたESGの取り組み方に当惑している企業があるはずです。では、どのようにガバナンスに取り組めばよいのでしょうか。

出典:スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会「日本版スチュワードシップコード」p7

出典:金融庁「投資家と企業の対話ガイドライン」p1

3. ガバナンスに取り組む企業の具体例

国内企業において、すでにガバナンスに取り組む企業はあります。ここでは、ガバナンスの具体例として企業の取り組みを紹介します。

ライオン株式会社

国内大手の生活用品メーカーであるライオン株式会社(以下ライオン)は2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、2019年に長期環境目標として「LION Eco Challenge 2050」を策定し「脱炭素社会」と「資源循環型社会」の環境活動に取り組んでいます。では、ガバナンスにおいてどのような取り組みをしているのでしょうか。

【ガバナンス推進における基本方針】

ライオン株式会社は、コーポレート・ガバナンスを策定するにあたり、経営の透明性の向上および監督機能の強化と意思決定の迅速化を図り、コンプライアンスを確保することを最重要課題と位置付けています。

具体的な取り組みとして、ガバナンスの推進において会社法上の監査役会設置会社を採用しており、月1回および臨時の取締役会による経営の監督機能を強化し、意思決定の迅速化を図るため執行役員制を導入しています。

また経営の透明性を高め、ガバナンスの充実を図ることを目的に、社外取締役および社外監査役を中心とした指名諮問委員会および報酬諮問委員会を設置しています。さらに、経営方針や経営戦略に関する第三者の意見や助言を経営に反映させるため、社外有識者により構成されるアドバイザリーコミッティ(取締役会および経営会議に対する助言を行う機関)を設置しています。

これにより迅速かつ公平な議論がなされ、また経営陣の暴走を防止できていることから、価値ある企業と認められていると思われます。

【ガバナンスにおける取り組み】

ライオンの情報開示における取り組みは、株主や投資家をはじめとするステークホルダの理解と信頼を得るために、経営戦略や財務状況を中心とする企業情報を公平性・正確性・適時性に配慮して、積極的に開示するIR情報開示方針を定めています。以下は、ライオンが開示する主な情報です。

(1)経営ビジョン

(2)基本戦略

(3)事業ポートフォリオ管理

(4)サステナビリティ

(5)人的資本

(6)知的財産への投資企業

これらの情報は、ESG投資において投資家が投資先企業を選ぶ重要な情報です。ライオンは、投資家が求める情報を迅速かつ明確に開示しているからこそ、持続可能な価値ある企業に選ばれるといえるのではないでしょうか。

出典:ライオン株式会社「サステナビリティ・ESGデータ・第三者検証」p1

出典:ライオン株式会社「コーポレートガバナンス基本方針」p7

カシオ(CASIO)計算機株式会社

カシオ計算機株式会社(以下カシオ計算機)はカシオ計算機がガバナンスに取り組むにあたり、2020年度にサスティナビリティ委員会を新設し、気候変動課題をはじめとしたサスティナビリティに関する事項と経営会議との連携を深める体制を整備しています。では、ガバナンスにおいてどのような取り組みをしているのでしょうか。

【ガバナンス推進における基本方針】

カシオ計算機は、持続的成長と中長期的な企業価値の向上を図るため、迅速な意思決定や適切な業務執行とともに経営監視機能の強化を重要課題と位置付けています。

具体的には、取締役会における監督機能を強化し、業務執行については取締役会による適切な監督のもと執行の迅速化と効率化を図るため、2019年の株式総会の決議により監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しています。また、全体9名の役員のうち3分の1を社外取締役が担うことで、監督機能の強化を図っています。カシオ計算機の主な委員会として以下がございます。

(1)取締役会・取締役

(2)監査等委員会・監査等委員

(3)指名委員会・報酬委員会

(4)執行役員制度・執行役員

また、取締役に対して情報や機会、費用面での支援を行うことで、責務や役割を果たすためのスキルや知識を高めています。とくに社外取締役については、事業に関する知識習得のための社内の重要会議や研究発表会への参加や、国内外の工場の視察を実施し、監査等委員については、日本監査役協会等を通じた情報収集・セミナー参加等、役割・責務に必要なレベルアップを図っています。

このように、委員会および役員が積極的にガバナンスの推進に取り組むからこそ、全社的に拡大し価値ある企業として評価されているといえるのではないでしょうか。

【ガバナンスにおける取り組み】

カシオ計算機は、コーポレート・ガバナンスの他に、法令遵守と倫理的観点からすべての役員および従業員が「創造と貢献」の経営理念を実践するために、腐敗防止コンプライアンスのガイドラインを制定しています。

〜カシオ ビジネスコンダクトガイドライン一覧〜

(1)高品質の商品・サービスを開発し、社会の役に立ち続けます

(2)事業活動のあらゆる側面で環境への配慮を徹底します

(3)公正・誠実・適正な取引活動を徹底します

(4)事業活動のあらゆる側面で人権を尊重します

(5)従業員の多様性を尊重し、働きやすい職場環境を構築します

(6)適正な企業情報開示とステークホルダーとの建設的な対話を行います

(7)社旗的貢献活動を通じて、健全で心豊かな社会の実現に貢献します

(8)自然災害、情報セキュリティ、事業環境変化等のリスクに対し、漏れのない危機管理を実施します

(9)経営者および組織の長は「カシオビジネスコンダクトガイドライン」の遵守を率先し垂範するとともに、周知徹底の責任を負います

上記のガイドラインにある通り、適正な企業情報開示と投資家などのステークホルダーとの積極的な対話を重視しており、代表取締役社長CEOの指揮のもとIR担当執行役員がIR活動を行っています。具体的な活動として、四半期ごとに開催している機関投資家や証券アナリストとの決算説明会での情報開示や、ホームページ上への各種IR情報の掲載および株主からの問い合わせ窓口を設ける対応をされています。

このようにカシオ計算機は、ガバナンスの実現に向けた社内体制を構築し、役員が積極的にガバナンスを推進しているからこそ、社会的評価の向上に繋がっているといえます。

出典:カシオ計算機株式会社「ガバナンス・コーポレートガバナンス」p1

出典:カシオ計算機株式会社「ガバナンス・腐敗防止コンプライアンス」p1

4. まとめ:自社のガバナンスを見直そう!

具体例をもとに、ESGのガバナンスが注目されている理由や取り組むべきことを解説しました。まだガバナンスに関する定義はありませんが、今回ご紹介したライオン株式会社やカシオ計算機株式会社を含めて、多くの企業がガバナンスをはじめとしたESGに取り組んでいます。

今後国際社会において、ESGは拡大すると考えられており、積極的にESGに取り組む企業こそ社会的評価の獲得と、経営成長が見込まれるといえます。ガバナンスへの取り組みを検討されている企業さまは、電気や水の使用量削減や、企業運営にダイバーシティを取り入れるなど、可能な範囲からESGを取り入れてみてはいかがでしょうか。

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