気候変動が私たちの健康に与える影響とは?気候変動と健康リスクについて解説!

気候変動といえば、氷河の融解や海面上昇を思い浮かべる方が多いかもしれません。実は、地球温暖化は私たちの健康にも大きな影響を及ぼしつつあるのです。

今回は健康リスクの背景にある日本での気候変動や気温の上昇が原因となって懸念される健康リスク、熱中症を例にとり気候変動にどう適応するかという適応策についてまとめます。

目次

  1. 気候変動による健康リスクの背景

  2. 気候変動の健康面での影響

  3. 気候変動に対する健康分野の適応策

  4. まとめ:気候変動の健康リスクは企業経営にも大きな影響をもたらす

1. 気候変動による健康リスクの背景

気候変動と健康リスクにはどのような関連があるのでしょうか。日本の気候変動の状況と温室効果ガスの現状についてまとめます。

(1)日本で進む気候変動

2021年8月中旬から下旬にかけて、西日本から東日本にかけての広い地域で大雨となりました。原因は日本列島付近で停滞していた前線に湿った空気が流れ込んだためです。

特に、2021年8月12日から14日にかけて、九州地方北部と中国地方で局所的に集中豪雨をもたらす線状降水帯が出現し、記録的な大雨をもたらしました。こういった大雨の原因は地球温暖化による長期的な気温上昇にあります。気温が上がると大気中の水蒸気量が増加し、降水量の急増につながります。

出典:環境省『令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』「 状況第1部第1章第1節 世界の気象災害・我が国の気象災害と経済的影響」

気象災害の発生状況は風水害等で支払われた保険金の増加によっても裏付けられます。

風水害等による保険金の支払い

出典:環境省『令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』「第 2節 気候変動問題」

過去の風水害の保険金額をみると、平成26年以降の風水害がトップ10の中に5つもランクインしています。大規模な被害をもたらす風水害が平成後期に集中していることがうかがえます。

このことから、金額ベースで見てや件数ベースで見ても、近年に大規模風水害が増加していることがわかります。地球温暖化は理論上のことではなく、現実の私たちの生活に大きな影響を与えているのです。

(2)日本の温室効果ガスの現状

世界全体の温室効果ガスの排出量は増加の一途をたどっています。

世界の温室効果ガス排出量出典:環境省『令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』「 状況第1部第1章第1節 世界の気象災害・我が国の気象災害と経済的影響」

新型コロナウイルスの影響により、2020年の世界の化石燃料由来のCO2排出量は5.4%減少しましたが、全体としては増加傾向にあります。

一方、日本のCO2排出量は7年連続で減少しています。2013年度比で21.5%も減少しています。しかし、世界全体の温室効果ガス排出量が増加し続けているため、日本もその影響を受けざるを得ないのです。

:7年連続で減少している日本の温室効果ガス排出量

出典:環境省『令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書』「 状況第1部第1章第1節 世界の気象災害・我が国の気象災害と経済的影響」

2. 気候変動の健康面での影響

気候変動は健康面でどのような影響を与えているのでしょうか。3つの影響についてまとめます。

影響の全体像

気候変動により想定される影響の概略図

出典:環境省『気候変動影響評価報告書(総説)』(p63)

気候変動の例として気温上昇、気圧・風パターンの変化、降水量・降水パターンの変化、海水温の上昇があげられています。それらが、複合的に絡み合うことで様々な健康リスクが発生すると予測しています。

今回はこれらの健康リスクの中から熱中症、感染症、光化学オキシダントに伴う健康被害を取り上げます。

(1)熱中症リスクの増大

気温上昇によってもたらされるリスクの一つが熱中症リスクです。熱中症とは高温多湿の環境下で長時間過ごすことで体温調節が上手くできなくなり、体内に熱がこもった状態のことです。

気温が上昇すると熱中症リスクも増大すると考えられます。下図から最高気温が30度台後半になると患者数が急速に増加していることが分かります。

日最高気温と熱中症患者数の関連出典:環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症の現状と今後について」(p21)

また、熱中症による死亡者数は増加傾向にあり、65歳以上の高齢者が熱中症によって亡くなる割合が急増しています。

性別・熱中症志望者数の年次推移

出典:環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症の現状と今後について」(p5)

(2)感染症リスクの増大

外気温の上昇は感染症のリスクも増大させています。感染症をもたらす病原体には寄生虫や真菌、細菌、ウイルスなどがありますが、気温上昇によりこれらの活動が活発化する可能性があります。

最もわかりやすいのは蚊が媒介する伝染病です。蚊が媒介する感染症の一つである日本脳炎には毎年、全世界で3〜4万人が感染しています。日本では西日本に多く見られましたが、ワクチン接種により流行が阻止されています。

コガタアカイエカの分布拡大による日本脳炎の範囲拡大出典:環境省 「地球温暖化の感染症」(p13)

日本脳炎を媒介するコガタアカイエカは夏の気温が高い時期に活発に活動します。温暖化によりコガタアカイエカの生息域が拡大すれば、ワクチン接種などの対策を十分にとらなければ患者数が増加すると予想されます。

出典:環境省 「地球温暖化の感染症」(p13)

(3)光化学オキシダントの増加

光化学オキシダントとは、大気中の窒素酸化物などが太陽の紫外線により化学反応を起こすことで発生する物質のことです。光化学オキシダントが増加し、大気が白くもやがかかったような状態のことを光化学スモッグといいます。

光化学スモッグが発生すると目がチカチカしたり、喉が痛くなることがあります。また、ぜんそく患者の発作を誘発することも知られています。光化学オキシダントが発生しやすい条件は、気温が高いことと風が弱いことです。この条件が満たされると大気中の光化学反応が促進され、光化学オキシダント濃度が増し、光化学スモッグが発生しやすくなります。

気候変動による気温上昇は光化学オキシダントの発生条件の一つであるため、温暖化の進行により光化学オキシダントの濃度が濃くなるのではないかと懸念されます。

出典:三重県「光化学スモッグ 大気環境」

出典:神奈川県「その他健康への影響と適応策(温暖化と大気汚染の複合影響)」

3. 気候変動に対する健康分野の適応策

気候変動による影響は、すでに様々な分野で確認されています。健康被害を減らすにはどのような適応策をとればよいのでしょうか。熱中症を例に適応策を解説します。

(1)熱中症への注意喚起

1つ目の適応策は熱中症への注意喚起です。熱中症は最高気温が30度台後半になると急激に増加します。天気予報で最高気温を確認するよう促すとともに、• 「熱中症予防情報サイト」の情報を活用して地域住民に熱中症への注意喚起を促すことが大切です。

出典:環境省「気候変動適応法と 地域における適応策の推進」(p18)

(2)都市緑化の推進

2つ目の適応策は都市緑化の推進です。コンクリートで地表を覆われた都市は気温が上昇しやすい環境となっています。この状態を緩和するため、屋上緑化や緑のカーテンといった都市緑化を推進するのが効果的です。

出典:環境省「気候変動適応法と 地域における適応策の推進」(p18)

(3)休息所の確保

3つ目の適応策は休息所の確保です。夏に高温になる埼玉県では、熱中症対策の一環として県内の公共施設や企業の協力を得て、外出時の休息所を設けました。県は「クールオアシス協力店」として休憩所を公表し周知を図っています。

出典:環境省「気候変動適応法と 地域における適応策の推進」(p18)

4. まとめ:今後は気候変動の健康リスクを踏まえた企業・社会の対策が必要

今回は気候変動がもたらす健康リスクを中心にまとめました。年々、世界の平均気温が上昇する中、それを前提とした適応策を考えなければなりません。

 

しかし、個々人で気候変動に対応するのは限界があります。そのため、国や自治体、企業を含めた社会全体で気候変動への対策や適応策を実施し、地球温暖化自体を防止する必要性が求められております。

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