カーボンニュートラル実現に向けた工場における取り組みとポイント

2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定が合意・発効されたことにより、世界各国でカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが行われています。温室効果ガス総排出量の中で9割以上を占めるCO2を多く排出している工場の取り組みが、カーボンニュートラル実現の鍵を握っています。カーボンニュートラルの取り組みをご検討中の法人の皆さまが知っておくべき、カーボンニュートラルに関する基礎知識や工場が取り組み意義、取り組み方法についてご紹介します。

目次

  1. カーボンニュートラルに関する基礎知識

  2. 工場がカーボンニュートラルに取り組む意義

  3. 工場がカーボンニュートラルを実現させる方法

  4. まとめ:カーボンニュートラルを実現し、企業の価値を高めよう!

1. カーボンニュートラルに関する基礎知識

気候変動問題の深刻化により世界がカーボンニュートラル実現に向け取り組んでいます。ここでは、カーボンニュートラルの概念と日本の目標、温室効果ガス削減の現状についてご紹介します。

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、どうしても排出される温室効果ガスと同量の温室効果ガスを吸収または除去することで、温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることです。資源エネルギー庁によると、2021年1月20日時点で124カ国と1地域が2050年度までのカーボンニュートラルを宣言しています。カーボンニュートラルが重要視されている背景にあるのが、世界各地に深刻な影響を与えている気候変動問題です。気候変動問題解決の鍵を握るのが温暖化ストップです。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、産業革命以降の温度上昇を1.5℃以内に抑えるためには、2050年頃までにカーボンニュートラルを実現させることが必要であるとの見解を示しています。

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021/2/16)

日本の目標と温室効果ガス排出量削減状況

2021年4月にアメリカが主催した気候サミットにおいて、日本は2030年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを目標とし、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていくとの決意を表明しています。温室効果ガス排出量が最も多かった2013年度以降、日本における温室効果ガス排出量は6年連続で減少しており、排出量と2013年度比は以下のように推移しています。

  • 2014 13億6100万トン −3.5%(2013年比)

  • 2015 13億2200万トン −6.2%(2013年比)

  • 2016 13億500万トン −7.4%(2013年比)

  • 2017 12億9200万トン −8.4%(2013年比)

  • 2018 12億4700万トン −11.6%(2013年比)

  • 2019 12億1300万トン −14.0%(2013年比)

出典:外務省『日本の排出削減目標』(2021/7/6)

出典:経済産業省『温室効果ガス排出の現状等』(p.4)

2. 工場がカーボンニュートラルに取り組む意義

日本が2050年度までにカーボンニュートラルを実現させるためには、CO2排出量が多い製造業などを含む産業部門の取り組みが鍵を握っています。ここでは、工場がカーボンニュートラルに取り組みべき理由や工場が現在抱える課題についてご紹介します。

工場がカーボンニュートラルに取り組むべき理由

日本における2019年度の温室効果ガス排出量は12億1300万トンですが、9割以上を占めているのがCO2です。最もCO2を排出しているのは産業部門で、鉄鋼業と化学工業、機械製造業が全体の65%を占めています。このように製造業による温室効果ガス排出量が多いことが、カーボンニュートラル実現に工場の取り組みが欠かせない理由です。

出典:経済産業省『温室効果ガス排出の現状等』(p.12〜14)

工場が抱える課題

鉄鋼業やセメント業などの製造業においては、現存する技術では脱炭素化が難しい領域があります。鉄鋼業においては製造プロセスで石炭を使用することから、セメント業においては製造プロセスで化学反応が起きることから必ずCO2が排出されます。資源エネルギー庁は、これらの脱炭素化が難しい領域においてはカーボンリサイクル等のイノベーションの追求の重要性があるとの見解を示しています。カーボンリサイクルとは、温暖化の主な原因であるCO2を資源として活用する方法です。セメントや機械など様々な分野で取り組むことができますが、生産性の向上とコスト削減という課題を抱えています。

工場全般について言えることですが、工場は稼働時間や日数が多いため、他の企業と比べるとどうしてもCO2排出量が多くなってしまうという課題もあります。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020/11/17)(p.22)

出典:資源エネルギー庁『CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装』(2021/4/30)

3. 工場がカーボンニュートラルを実現させる方法

カーボンニュートラルを実現させるためには、脱炭素化された電力による電化や水素化、メタネーション、合成燃料等による脱炭素化が必要です。ここでは、工場がカーボンニュートラルを実現させる方法についてご紹介します。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討』(2020/11/17)(p.19)

(1)再生可能エネルギーの導入

工場で使用している電力を再生可能エネルギー由来の電力に切り替えることで、工場から排出されるCO2の量を大幅に削減することができます。再生可能エネルギーはライフサイクル全体を通してCO2は排出しますが、化石燃料のように発電時にCO2を排出しません。実際に工場で使用している電力を再生可能エネルギーに切り替えている企業の事例をご紹介します。

出典:環境省『再生可能エネルギー導入加速化の必要性など』(p.4)

(a)大和ハウス工業株式会社

大阪市に本社を置く住宅メーカーです。環境と企業の収益の両立を達成するために、2055年を見据えた「Challenge ZERO 2055」を策定しており、その中で事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにする目標を掲げています。全国にある工場のうち、4つの工場で使用する電力を2020年10月から順次、再生可能エネルギーに切り替えています。

出典:Daiwa House Group『ニュースレター』(2020/9/10)

(b)ブリヂストン

東京都に本社を置くタイヤメーカーです。2050年度におけるカーボンニュートラルを目指し、2021年3月に海外の子会社で使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替えています。日本の工場では、2021年6月から外部から購入していた電力を全て再生可能エネルギーに切り替えています。

出典:BRIDGESTONE『ニュースリリース』(2021/7/8)

(c)花王

花王株式会社は、海外も含め全拠点から排出される温室効果ガスの量を、2017年度比で2030年までに22%削減することを目標に掲げています。目標を達成するために、自家消費用太陽光発電設備の導入や、購入電力の再生可能エネルギー化に取り組んでいます。

出典:花王『ニュースリリース』(2020/4/16)

(2)省エネルギーへの取り組み

CO2の排出総量は、エネルギー消費当たりのCO2排出量に、経済活動のエネルギー効率・人口1人当たりの経済水準・人口を乗ずることで求めることができます。省エネルギーに取り組むことで経済活動のエネルギー効率を低くすることができ、その結果CO2排出量総量を削減することができます。工場が省エネルギーに取り組む方法としては、LEDや産業用ヒートポンプの導入などがあります。

出典:資源エネルギー庁『「CO2排出量」を考える上でおさえておきたい2つの視点』(2019/6/27)

(3)J-クレジットの導入

工場でのCO2排出量削減が難しい場合、J-クレジットを購入してCO2排出量から差し引くことができます。J-クレジットとは、省エネルギー機器の導入や森林経営などにより削減または吸収した分の温室効果ガスを売買可能なクレジットとして国が認証する制度です。

出典:J-クレジット『J-クレジット制度』

4. まとめ:カーボンニュートラルを実現し、企業の価値を高めよう!

カーボンニュートラルへの取り組みをご検討中の法人の皆さまが知っておくべき、カーボンニュートラルの基礎知識や工場が取り組む意義、取り組み方法などについてご紹介しました。日本がカーボンニュートラルを実現するためには、CO2排出量が多い工場の積極的な取り組みが欠かせません。カーボンニュートラルについての理解を深め取り組むことで、企業の価値を高めましょう!

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