カーボンニュートラルに挑戦する日本 鍵は中小企業の素早い取り組み

アメリカのバイデン大統領は2021年4月22日の気候変動サミットで「今が気候変動問題への取り組みにおける勝負の10年であり、気候危機による最悪の結果を避けるための決断を下す時だ」と述べ、「アメリカは待たない、行動すると決意している。」と強い意志を示しました。

世界はカーボンニュートラルに向けてかつてない速度で進んでいます。この流れの中、日本はどのような方針と取り組み示しているのでしょうか。

目次

  1. 深刻な地球温暖化

  2. 2050年カーボンニュートラル宣言

  3. カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略

  4. まとめ:中小企業のカーボンニュートラルへの素早い取り組みが日本の「野心的な」目標を達成させる鍵

1. 深刻な地球温暖化

地球温暖化の現状

気候システムの温暖化は深刻です。原因は人間の活動による温室効果ガスの排出増加である可能性は極めて高く、このまま排出し続ければ更なる温暖化と気候システム全体に長期間の影響を与えます。

これは人々や自然の生態系に深刻で再び元の状態に戻すのは困難な被害を与え、多くの地域で熱波が頻発・長期化し、極端な降水がより強くより頻繁になると予想されます。

出典:環境省『地球環境の保全

人間の活動により工業化以降、世界の平均気温は上昇を続けています。このまま上昇を続けると2030年~2052年までの間に1.5℃の平均気温上昇に達してしまい、極端な高温の増加・海水面の上昇・生物多様性と生態系への影響・夏季の北極の氷の消滅・サンゴ礁の70%~90%の死滅(2℃上昇で全滅)など深刻な事態が予測されています。

温室効果ガスの排出がなくなったとしても、地球温暖化がもたらした影響は何世紀も持続します。しかしCO2の排出を早期に減らさなければ地球温暖化はこの先も急激に進みます。

地球を住み続けられる場所にするため、世界は大規模なCO2の排出削減・CO2除去技術の導入に最善を尽くす必要があるのです。

出典:環境省『地球環境の保全

世界のカーボンニュートラルへの動き

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

世界では120以上もの国と地域が「2050年カーボンニュートラル」に向け大胆な政策措置を打ち出しています。環境・社会・ガバナンス(=企業自らの管理・統治)を重視したESG投資は世界で3000兆円にも及び、環境関連の投資の存在は増々大きくなっています。

2021年4月22日の気候変動サミットで、バイデン大統領はアメリカが2030年までにCO2排出量を2005年比で50~52%削減すると約束し、これまで2025年までに26~28%としてきた目標を2倍近く引き上げました。

また、韓国は海外での石炭火力発電所建設への融資を停止することを表明しました。

出典:BBC『バイデン氏、気候変動対策の「勝負の10年」 サミットでCO2削減の新目標を発表

2. 2050年カーボンニュートラル宣言

カーボンニュートラル宣言とは

日本政府は2020年10月「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。2050年までに温室効果ガスの排出量を森林の吸収量などから差し引いてゼロにするという意味で、この目標達成のためには温室効果ガス排出の大幅な削減が大前提となります。

排出量をゼロにすることが難しい分野も多く、それらの分野の排出量を埋め合わせるためにCO2の「吸収」や「除去」も行います。植林により植物のCO2吸収量を増やしたり大気中のCO2を回収する技術の導入などの手段があります。

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?

世界の中の日本

バイデン大統領が「今が気候変動問題への取り組みにおける勝負の10年だ」と述べた2021年4月の気候変動サミットで菅首相は「日本が世界の脱酸素化のリーダーシップを取っていきたい」と述べました。これまで2030年に26%としてきた日本の温室効果ガス削減目標について、「野心的な目標」として2030年度には2013年度比の46%削減を目指すと表明しました。

出典:BBC『バイデン氏、気候変動対策の「勝負の10年」 サミットでCO2削減の新目標を発表

2013年以降日本は毎年温室効果ガスの排出削減を達成しており、これは世界主要20か国の中でもイギリスと日本のみで、直近の着実な対策でも世界をリードしています。

主要先進国の温室効果ガス排出量の推移(2013年比)

出典:資源エネルギー庁『2020‐日本が抱えているエネルギー問題(前編)

地球の死活問題に立ち向かう世界のリーダーシップをとり、日本の活性化と持続的な豊かさ、そして住み続けられる地球を守りたいという強い意志を「野心的な」という言葉に込め、日本はアメリカとも強く連携し、積極的・挑戦的に環境問題に取り組んでいます。

出典:産経新聞『気候変動サミット 菅首相発言全文「脱炭素化のリーダーシップをとっていきたい」

3.カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略

グリーン成長戦略とは

グリーン成長戦略とはカーボンニュートラルをきっかけに産業構造を抜本的に転換し、CO2削減と経済の大きな成長へつなげるため、企業の挑戦を支援する産業政策です。

2009年のリーマンショックの反省から、コロナ禍からの回復局面ではイノベーションを促す投資の促進・産業競争力の強化・新産業への転換でリーマンショック後のような経済停滞を繰り返さない持続可能な経済成長と雇用創出を目指します。

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

予算:「グリーンイノベーション基金」創設

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設し企業を継続して支援します。この2兆円の基金を呼び水にし、想定15兆円の民間企業のイノベーション投資を引き出すことが目標です。

取り組みが単なる研究開発に終わらず社会実装につなげるため、国は企業経営者に経営課題として取り組む責任と約束を求めます。

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

税制:脱酸素化の効果が高い製品への投資を優遇

「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」で、CO2削減の効果の高い製品(燃料電池、洋上風力発電設備の主要専門部品など)を作るための生産設備を導入する時、一定の税の優遇が受けられます。企業の投資意欲向上を引き出すため、積極的な研究開発投資を行う企業に「研究開発税制」で税の控除上限を引き上げます。

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

金融:ファンド創設など投資を促す環境整備

10年以上の長期的な事業計画の認定を受けた企業に対し長期資金供給・成果連動型の「利子補給制度」の仕組みを創設します。「利子補給制度」とは3年間で1兆円の融資規模で、一定の要件を満たせば利子に相当する助成金を受け取ることができる制度です。

企業の環境活動を金融を通じて促すため、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの取り組みを通じて、カーボンニュートラルへの企業の取り組みの情報開示を促します。TCFDは企業に対しガバナンス・戦略・リスク管理・指標・目標の4項目について、気候関連情報を開示するように勧めています。

国内外のESG資金を取り込むため、金融機関の協力体制を構築し、社会課題に取り組む企業の資金調達のための債権「ソーシャルボンド」を円滑に発行できるようにするなど、カーボンニュートラルに向けたファイナンスシステムを整備します。

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

規制改革:新技術普及のための規制緩和・規制強化

新技術の導入が進むよう規制を強化し、導入の妨げになる不合理な規制は緩和します。新技術が世界で活用されるよう、国際標準化にも取り組みます。

CO2に価格を付ける「カーボンプライシング」などの新たな制度作りや既存の制度活用も含めた経済的手法の導入を検討します。

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

国際連携:日本の先端技術で世界をリード

欧米諸国との間でイノベーション政策における連携、新興国をはじめとする第三国でのカーボンニュートラルへの取り組み支援などを推進するほか、技術の標準化や貿易のルール作りに連携して取り組みます。

アジア新興国との間でカーボンリサイクル・水素・洋上風力・CO2回収といった分野で協力・連携し、各国の事情に応じた実効的な低炭素化への移行を支援します。

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

まとめ:中小企業のカーボンニュートラルへの素早い取り組みが日本の「野心的な」目標を達成させる鍵

カーボンニュートラルへの・素早い対応・取り組みは必須

日本はカーボンニュートラル実現を経済成長の原動力にするため大きく踏み出しました。この取り組みは決して容易なものではありませんが、世界のもの作りを支える日本として世界をリードしようとしています。

経済と環境の好循環を生み出し持続可能な社会へと力強い成長を遂げるため、日本は急速に経済・社会の変革を進めています。この流れの中でカーボンニュートラルにいち早く取り組まなければ、長期的な企業の成長は難しくなるでしょう。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラルを見据えた 2030年に向けたエネルギー政策の在り方』p.3

カーボンニュートラルをチャンスに

カーボンニュートラルに向けた取り組みは、もはや環境問題というより国家間の産業競争力・産業政策の問題となっています。最先端の開発力を持つ日本にとって逃すことのできない大きなチャンスであり、中小企業も含めた産業界全体で積極的に取り組む必要があります。

国際競争に勝てる企業を一社でも多く残すため、大きな政策支援が今後も検討されます。社会を持続可能にし経済に活気をもたらすため、中小企業もできることから早く積極的にカーボンニュートラルに取り組みましょう。

出典:資源エネルギー庁『2050年カーボンニュートラルを見据えた 2030年に向けたエネルギー政策の在り方』p.19

 

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