カーボンニュートラルに向けて中小企業が取り組むための基礎知識

地球温暖化の危機を背景に、現在急速にカーボンニュートラルへの取り組みが企業に求められるようになりました。国へのCO2排出量の報告義務に満たない中小企業でも、サプライチェーン全体でのCO2排出量算定のためにCO2の排出先減への取り組みを求められたり、取引先にカーボンニュートラルへの取り組みを求める企業も増えています。この大きな流れに乗り遅れないために、カーボンニュートラルについて確認してみましょう。

目次

  1. カーボンニュートラルとは

  2. 中小企業にとってのカーボンニュートラル

  3. カーボンニュートラルに取り組むメリット

  4. カーボンニュートラルへの取り組み方

  5. まとめ:カーボンニュートラルで攻めの一手を

1. カーボンニュートラルとは

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン戦略

2020年10月、国会において「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会を目指す」ことが宣言されました。

カーボン(carbon=炭素)ニュートラル(neutral=中立の・中性の)とはCO2などの温室効果ガスの排出量を森林などによる吸収量から差し引いて、全体としてゼロにするという意味です。

出典:環境省『カーボンニュートラルとは

2050年カーボンニュートラルに向け、まだ最先端の開発力を持つ日本にとって世界的競争力を獲得する大きなチャンスであり、すでに始まっている国家間の総力戦において中小企業も含め産業界全体で積極的に取り組む必要があります。

出典:経済産業省『2050年カーボンニュートラルを見据えた 2030年に向けたエネルギー政策の在り方

2. 中小企業にとってのカーボンニュートラル

投資家や消費者の動き

日本の中小企業の中にはまだ、カーボンニュートラルを「環境意識が高い団体のみが取り組むこと」と考えている企業が少なくないかもしれません。しかし世界の流れはすでにカーボンニュートラルに向けて熱意をもって本気で取り組んでおり、投資家もカーボンニュートラルに取り組む企業に優先して投資をする傾向にあります。

出典:日経XTECH『カーボンニュートラルは雇用問題、日本企業は「ツルハシ」を貸せ

日本でも2020年10月の2050年カーボンニュートラル宣言以降、CO2削減への取り組みに対して先送りや言い訳ができない状況になりました。カーボンニュートラルへの取り組みが不十分な製品は購買対象から外されるなどの動きもあり、カーボンニュートラルに取り組まなければビジネスができない時代へと急速に変貌を遂げています。

出典:日経XTECH『なぜ必要?商機はどこ?「カーボンニュートラル」10の疑問

サプライチェーン全体でのCO2排出量

大手企業にはCO2の排出量を企業自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した量を算定する「サプライチェーン排出量算定」が定着してきました。CO2排出量報告義務の基準に満たない中小企業でも、カーボンニュートラルへの取り組みの明確化やCO2排出量の算定が必要となる可能性は今後高まります。

出典:資源エネルギー庁『サプライチェーン排出量算定を始める方へ

すでに大企業では「サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指す」動きが急速に進んでいます。これを受けて中小企業でもカーボンニュートラルへの取り組みを進める企業が増加しています。

株式会社二川工業製作所のサプライチェーンである兵庫県の鋼管・パイプ卸売業の竹中鋼管株式会社の例では、再エネ100%の電気の導入によりCO2削減の推進に取り組んでいます。

出典:産経新聞『兵庫県姫路市の鋼管・パイプ卸売業の竹中鋼管がアスエネの再エネ100%電力調達を開始、二川工業のサプライチェーンCO2排出量の削減の推進

3. カーボンニュートラルに取り組むメリット

他企業との差別化

気候変動の影響が顕著化し、国際的にカーボンニュートラルへの取り組みが加速する中で、早期にカーボンニュートラルを目指した取り組みを行うことにより、他企業との差別化ができます。

これによりカーボンニュートラルへの取り組みを重視する企業とのビジネスの機会が増えることが期待できます。

出典:環境省『企業の脱炭素経営への取組状況

長期的な企業の成長

※グリーン成長戦略によるカーボンニュートラル達成へのイメージ
出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

政府はあらゆる政策で積極的にカーボンニュートラルに取り組む企業を支援する方針です。具体的には次のような5つの主要政策が打ち出されています。

  1. 予算:2兆円のグリーンイノベーション基金の創立

  2. 税制:脱酸素化の効果が高い製品への投資を優遇

  3. 金融:ファンドの創設など投資を促す環境整備

  4. 規制改革・標準化:新技術が普及するよう規制緩和・強化

  5. 国際連携:日本の先端技術で世界をリード

出典:資源エネルギー庁『カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”とは?

これを見てもわかるようにカーボンニュートラルに取り組む企業は優遇される一方、無関心な企業は投資家から敬遠され、金融機関からの融資も受けにくくなると予想されます。

地球環境が積極的に改善に取り組まなければ生命存続の危機にあるのと並行して、気候変動の深刻さを理解しカーボンニュートラルに取り組まなければ企業の存続と成長も難しくなるのです。

カーボンニュートラルに取り組むことで得られるビジネスチャンスは大きく、経済産業省が試算した経済効果は日本だけで2050年には年額190兆円にも達すると報道されています。

出典:日経XTECH『なぜ必要?商機はどこ?「カーボンニュートラル」10の疑問

4. カーボンニュートラルへの取り組み方

長期的なエネルギー転換の方針

カーボンニュートラルへの取り組みを始めるにあたっては将来の技術開発の動向も見据えつつ、電化、バイオマス・水素を利用する可能性など、企業の主要設備のエネルギー転換の方針を検討することが重要になります。

コストやインフラ、技術開発の状況により、一気にエネルギー変換に踏み切ることが難しい場合は段階的な転換を図ることも検討してみましょう。

出典:環境省『中小規模事業者のための脱酸素経営ハンドブック』p.21

出典:資源エネルギー庁『2020‐日本が抱えるエネルギー問題 

短期~中期的な省エネ対策

長期的なエネルギー転換の方針をもとに、短期~中期的な省エネ対策を検討します。長期的なエネルギー転換と省エネでCO2がどの程度排出削減できるのかを概算して、企業の削減目標に届かない場合は消費電力を再エネに切り替えるなどが必要になります。

出典:環境省『中小規模事業者のための脱酸素経営ハンドブック』p.22

再生可能エネルギーの導入手段

再エネの導入により大幅なCO2削減を図ることができます。太陽光発電設備などを自社で導入したり燃料をバイオマスに変える手段のほかにも、使用電力を再エネ100%のプランに切り替えるなどの方法があります。

出典:環境省『中小規模事業者のための脱酸素経営ハンドブック』p.23

再エネ100%のプランに切り替えるときは以下の資料を準備し、複数の電力小売業者から見積もりを取得して検討しましょう。

出典:環境省『中小規模事業者のための脱酸素経営ハンドブック』p.23~p.26

削減対策の精査と計画

カーボンニュートラルへの取り組みの検討結果をとりまとめます。①想定されるCO2削減量(t-CO2/年)②想定される投資金額(円)③想定される光熱費・燃料費の増減(円/年)を定量的に整理し、可能な範囲で各取り組みの実施時期を決めましょう。

カーボンニュートラルへの取り組みの効果・影響として各年のCO2削減量・各年のキャッシュフローへの影響を集計し、とりまとめます。

出典:環境省『中小規模事業者のための脱酸素経営ハンドブック』p.2

5. まとめ:カーボンニュートラルで攻めの一手を

大企業を中心にカーボンニュートラル経営に向けた企業の取り組みが急速に広がっています。原材料・部品の調達・製品の使用段階を含めたCO2排出量を削減する動きや、金融機関の融資先選定の基準にもカーボンニュートラルへの取り組み状況が加わることが増えてきました。

中小企業にとってもCO2削減は光熱費・燃料費削減といった「守り」の要素だけではなく、売り上げの拡大や金融機関からの融資獲得といったメリットを追求した「攻め」の要素を持ちつつあります。

このカーボンニュートラル達成に向けた世界の流れにいち早く対応することが、今後の企業の生き残りと成長につながります。まだ取り組みをしていない企業ほどCO2削減の手段は低コスト・低リスクから選べる可能性があります。先ずは自社の現状を把握し、カーボンニュートラルへの取り組みを早期に検討しましょう。

出典:環境省『中小規模事業者のための脱酸素経営ハンドブック』はじめに

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