建設業におけるカーボンニュートラル達成に向けて|企業事例紹介!
- 2023年09月15日
- CO2削減
建設業界において、カーボンニュートラルへの取り組みが促進されているのをご存じですか。カーボンニュートラルとは脱炭素に向けた施策の一つで、日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言しました。温室効果ガス排出による地球温暖化の影響にむけて環境負荷を削減する取り組みが、本格的に開始されたのです。
建設業は、資源調達、建築、解体といった事業活動の流れの中で、多くのCO2を排出します。持続可能な社会実現に向けて、建設業界の脱炭素化、環境負荷削減は必須です。この記事では、建設業におけるカーボンニュートラルへの取り組みを、企業事例と併せて具体的に紹介します。
目次
-
カーボンニュートラルと脱炭素化の違いは?
-
建設業界におけるCO2排出量の現状を知る
-
建設業界における省エネ化・再エネ化を促進!
-
建設現場のカーボンニュートラルに向けた取り組み
-
カーボンニュートラルに取り組む企業事例
-
まとめ:カーボンニュートラルを推し進め建設業の未来を開こう!
1. カーボンニュートラルと脱炭素化の違いは?
地球温暖化の深刻化を受け、2050年カーボンニュートラル宣言やパリ協定といった気候変動対策がいくつも採択され、企業活動にも影響を与えるようになっています。ここではそれらを理解する上で重要な、基本的な知識であるカーボンニュートラルや脱炭素化について、わかりやすくご説明します。
カーボンニュートラルと脱炭素化の違い
地球温暖化が深刻化する現在、その原因である温室効果ガスの排出を抑制するため、2015年12月にパリ協定が締結されました。パリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命前から2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することを目指し、世界全体の温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることを目標としています。
ここで重要となるのが、「カーボンニュートラル」と「脱炭素化」の2つの考え方です。
カーボンニュートラルとは、CO2などの温室効果ガスの排出量をできるだけ減らし、また森林などによる吸収量を増やすことで、人間活動によって排出される温室効果ガスを実質的にゼロにしようとする考え方です。
一方脱炭素化とは、カーボンニュートラルよりさらに厳しく、温室効果ガスの排出量をゼロにしようとする考え方です。
IPCCの報告書によると、既に世界の平均気温は産業革命前から1℃上昇しており、従来の経済活動を続けていると、早ければ2050年には4℃程度上昇すると考えられています。そのため、1.5℃目標を達成するには、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする必要があるのです。
パリ協定では、できるだけ早急に、かつ実現性のある形で温室効果ガスの排出量を減らすために、全ての国に5年ごとの自国における削減目標の提出・更新を求めており、また世界全体として1.5℃目標に向けた削減状況をレビューすることを定めています。さらにパリ協定では、例え1.5℃に気温の上昇を抑えられたとしても、異常気象や生態系の破壊などの地球温暖化による悪影響は避けることができないため、これらの悪影響に対処するための適応策の強化や、発展途上国の持続可能な開発を支援する資金や技術の供与に関する仕組みも組み込まれています。
出典:WWFジャパン「パリ協定とは?脱炭素社会へ向けた世界の取り組み 」
出典:環境省「脱炭素ポータル」
カーボンニュートラルについて詳しく知りたい方はこちら
URL:https://earthene.com/media/122
2050年カーボンニュートラル達成への道
カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとした温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡を意味します。人間の経済活動において排出される温室効果ガスを、例えば森林が吸収する分を差し引いて、全体の合計を実質ゼロと捉える方法です。温室効果ガスの排出削減、および吸収のための作用を保全するための取り組みとも言えます。
日本は「カーボンニュートラル宣言」において、2050年までにカーボンニュートラル達成という目標を打ち出しました。
出典:環境省「脱炭素ポータル」
2. 建設業界におけるCO2排出量の現状を知る
日本の産業部門におけるCO2排出量は、建設機械における排出量が約571万トンで、産業部門全体の35%のうち1.4%を占めます。そのほかにも建設工事現場で使用されるエネルギーの燃焼により、多くのCO2が排出されています。
出典:国土交通省「建設現場における脱炭素化の加速に向けて -モデル工事「カーボンニュートラル対応試行工事」を実施-」(p.1)(2021.7.6)
3. 建設業界における省エネ化・再エネ化を促進!
建築物省エネ法の制定
建築物省エネ法とは、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」のことで、平成28年7月に制定されました。これは、建築物のエネルギー増加に伴い、建築物のエネルギー消費性能の向上の基本的方針や、一定規模以上の建築物の建築物エネルギー消費性能基準への適合性を確保などの措置を講じ、エネルギー使用の合理化を図るための建築物の「省エネの基準」です。
日本では、脱炭素化に向けて、2025年には建築物省エネ法を新たに建築されるすべての建築物に適用することが決定しました。
出典:国土交通省「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」
建設業界で期待される再エネ利用
環境省が推進する目標「Science Based Targets(SBT)」に認定されている温室効果ガス削減目標の達成に向けて、建設業界では再生可能エネルギー(以下再エネ)の活用が開始されています。化石由来による火力エネルギーを大幅に削減し、温室効果ガスを発生しない再エネを利用する方向へと舵がきられ、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の建設も促進しています。
また、政府は再エネの活用を2030年度までに電源構成比率で36〜38%まで達成することを目指しています。これにより再エネの発電設備建設が今後進むことは間違いなく、建設業界にとって大きな市場となることは間違いありません。
出典:資源エネルギー庁「エネルギー基本計画の概要」(p.12)(2021.3)
出典:資源エネルギー庁「日本のエネルギー2020」(p.9)
4. 建設現場のカーボンニュートラルに向けた取り組み
カーボンニュートラル対応試行工事
建設業界においてさらなる脱炭素化を進めるために、「カーボンニュートラル対応試行工事」が導入され始めています。公共事業において行われたモデル工事を基に、カーボンニュートラル試行工事についてご説明します。
カーボンニュートラル試行工事では、工事契約時には、入札契約の1次審査において、工事に用いる建設機械やSBT認定の有無から「カーボンニュートラルに関する取組実績」、2次審査においてはその現場における取組や評価手法をまとめた提案書から「カーボンニュートラル推進の取組提案」が評価されます。
また、工事完成時には認定を受けた低炭素・低燃費建設機械の活用状況に応じた「工事成績評定」で評価がされます。これらの評価を受けたのちには、工事施工中や完成後に、受注者・発注者共同で、カーボンニュートラルへの配慮を取り入れた工事を行ったことをアピールすることができます。モデル工事では官民共同で、看板や先進技術紹介、現場見学会などでPRがなされました。
出典:国土交通省「建設現場における脱炭素化が始まります -モデル工事「カーボンニュートラル対応試行工事」を公告-」p.3、4
原材料のカーボンニュートラル化
建設現場で使用するすべての原材料に対して、温室効果ガス排出削減に取り組むことも重要です。資材の調達や建築物に対する設計・施工、そして運用や解体にいたるまで、建設事業活動のカーボンニュートラル化を目指しています。環境負荷の小さい低炭素材であるグリーン調達品目を利用することや、照明のLED化などで、サプライチェーン全体のCO2排出削減に取り組んでいます。
法整備
2021年に採択された「地球温暖化対策計画」や「エネルギー基本計画」を受け、2050年には住宅・建築物のストック平均で、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB基準の省エネルギー性能確保を目指すことが掲げられました。これを受けて建築物省エネ法が改正され、以下6つの義務や認定が課されることとなりました。
(1)中規模以上非住宅建築物に対する適合義務及び適合性判定義務
中規模以上非住宅建築物を新築する際は、エネルギー消費性能基準への適合と、その判定を受ける義務を課すもの。
(2)中規模以上の住宅に対する届出義務
中規模以上の住宅を新築する際には、省エネ計画の届出義務を課し、エネルギー消費性能基準に適合しない場合は指示を行うもの。
(3)小規模建築物に対する建築士による説明義務
300平方メートル未満の小規模建築物を設計する際は、建築士が省エネ基準への適合性を評価し、建築主にその結果を説明しなければならないとするもの。
(4) 省エネ向上計画の認定(容積率特例)
省エネ性能の優れた建築物は、容積率の特例を受けることができるとするもの。
(5)エネルギー消費性能の表示
エネルギー消費性能基準に適合している建築物に、その表示を許可するもの。
(6)建築物省エネ法の誘導基準の見直し
省エネ性能向上計画の認定基準や認定申請単位の改正。
出典:東京都都市整備局「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」
企業活動
個々の企業が率先して温室効果ガスの排出量削減に向けた取り組みを行うことも重要です。現在、環境省では、二酸化炭素の排出を抑制した事業を行っている企業に補助金を交付しており、2022年度は住宅のZEH化や省CO2化を促進するものなど、全36事業に対して補助事業者が採択されました。このように、建設業界においても企業の社会的責任が求められるようになっており、こと環境への配慮は重要視されています。
出典:環境省「2022年度(令和4年度)二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金に係る補助事業者(執行団体)について」
5. カーボンニュートラルに取り組む企業事例
三井住友建設
三井住友建設は、環境ビジョン 「Green Challenge 2030」を掲げて環境活動に取り組んでいます。施工段階におけるCO2排出削減では、「原単位を1990年比で50%削減」を目標としており、再エネ推進事業においては、関連事業の試算は「発電能力:650MW以上」を見込んでいます。
戸田建設
2050年カーボンニュートラル達成に向けて、戸田建設はサプライチェーンを含めた事業活動のすべてでCO2排出削減を目指しています。EB・省エネ建物の建設に力を入れ、高度なエネルギーマネジメントを打ち立てました。再エネの促進としては、他業者に先駆けて浮体式洋上風力発電所の設置・運営に着手しています。資源の有効活用と廃棄物削減・リサイクルも推進することで、循環型社会に向けて貢献します。
東急建設
東急建設はマテリアリティにおいて、「気候変動(対応と適応)」を掲げ、長期経営計画 「To zero, from zero.」で、脱炭素に取り組んでいます。温室効果ガス削減に向けた国際的目標のSBT認定を取得し、その他には、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)プランナーの認定も取得しています。積極的に新建築物のZEB化を推進し、カーボンゼロに向けた挑戦を行っています。
鹿島建設
鹿島建設は、すべての現場の活動工程でのCO2排出量を、月単位で把握し可視化する「環境データ評価システム(edes:イーデス)」を開発しています。現場でのCO2排出量や水の使用量などを月単位で集計して可視化し、CO2削減につなげ、カーボンニュートラル化を促進しています。また、建設現場のCO2排出量削減管理ツール「現場deエコ®」も開発。資材のムダや化石エネルギーの消費を抑え、コストの削減を行う独自の取り組みを行っています。
清水建設
「子どもたちに誇れる仕事を」を掲げている清水建設は、2005年に「エコロジー・ミッション」を策定しています。2020年には建築施工時のCO2排出を、1990年度比で66%削減しました。独自の取り組みとして、コンクリートを、環境配慮型資材(高炉B種セメントなど)のグリーン調達にすること、建設物の構工法改善でCO2排出を削減すること、積極的に再エネを活用することなど、多様に取り組んでいます。
出典:清水建設「ESG経営」
6. まとめ:カーボンニュートラルを推し進め建設業の未来を開こう!
建設業界と脱炭素の関係を企業事例を含めながらご紹介しました。「住」を司る建設業は、私たちにとってなくてはならない産業です。だからこそ、持続可能な未来に向けて脱炭素化を推し進めることは重要です。建設業界がカーボンニュートラルに取り組むことは、未来の環境に貢献し、私達の社会をさらに住みよくすることにほかなりません。
カーボンニュートラルの取り組みをはじめ、持続可能な社会へと貢献する企業として、ぜひ一歩踏み出しましょう。