国際⺠間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキームCORSIAとは?日本における取組も解説
- 2024年07月18日
- CO2削減
CORSIA(コルシア)とはどのようなものか、わかりやすく解説します。現在気候変動が地球規模で問題となっており、航空分野においても地球温暖化の原因となっているCO2の排出量削減が重要な課題です。そのため航空業界では、さまざまな取組みを展開しています。CORSIAはその基本となる枠組みであり、国境をまたがって運行される航空便に関して、各国が協力して目標管理などが行われています。
本記事ではCORSIAの概要や、日本における各種取組事例などをご紹介します。
目次
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CORSIAの概要
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CORSIAにおける各種制度
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日本におけるCORSIAに関する取組事例
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まとめ:CORSIAに対応して、航空分野でのカーボンニュートラルを実現しよう!
1.CORSIAの概要
気候変動対策は主に国ごとに検討されますが、国際航空分野では国境を越えて移動することから、国際的な取り決めが必要です。それがCORSIAです。
CORSIAとは
CORSIAはCarbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviationの略で、日本語に直すと「国際航空向けカーボン・オフセットおよび削減スキーム」となります。CORSIAは2018年ICAO(国際民間航空機関)によって、国際民間航空条約の附属書として採択されました。各航空会社はCORSIA制度の下、基準排出量であるベースライン以下に CO2 排出量を抑えることが求められています。
出典:一般財団法人 運輸総合研究所「航空分野におけるCO2削減取組みに関する調査(CORSIA調査)及び海事・航空等交通運輸業界への周知啓発報告書」p2(2023/3)
CORSIAの参加国
CORSIAには、2024年1月1日以降126カ国が参加しています。2023年には115カ国でしたが、アンティグア・バーブーダ、バーレーン、エクアドル、クウェート、サモア、セーシェル、シエラレオネ、ソロモン諸島、モーリシャス、マラウイ、ハイチの11カ国が新たに加わりました。欧米をはじめ主要国は当然参加しており、もちろん日本も含まれています。
先進国はほとんどCORSIAへ参加していますが、中国・ロシア・インド・ブラジルは大国であるにも関わらず、CORSIAへ参加していません。これらの国は国際航空のCO2排出量において約20%を占めているのですが、自国はあくまで開発途上国であるというスタンスのため、CORSIAへ参加していないという背景があります。
このようにCORSIAでは、開発途上国の場合参加が免除される点が特徴です。現時点でのCORSIAは先進国と自発的な参加国が、航空分野におけるCO2削減を目的に協力する取組となっています。
出典:IOCAO「CORSIA States for Chapter 3 State Pairs」
出典:ICAO「CORSIA States for Chapter 3 State Pairs」p2-3
出典:一般財団法人中東協力センター「日本の航空業界の持続可能な航空燃料(SAF)への挑戦」
CORSIAベースライン
CORSIAの基準排出量であるベースラインは、2024年~2035年の期間について「2019年のCO2排出量の85%」と定められています。各国際航空会社は燃料効率の改善によってCO2排出量を削減したうえで、ベースラインを超過した分は排出権取引によってオフセット(相殺)することを求められます。排出権取引については後述します。
当初は2019年・2020年の排出量平均値がベースラインとされていましたが、2020年に新型コロナの世界的な流行で国際線の航空輸送量が激減した影響でCO2排出量が約59%も減ったため、ベースラインも上記の通り見直されることとなりました。
出典:国土交通省「航空脱炭素化の取組の進捗について」p9(2022/11)
出典:ICAO「Analyses in Support of the 2022 CORSIA Periodic Review」p3(2021/9)
2.CORSIAにおける各種ルール
CORSIAではCO2削減量だけではなく、削減量の管理方法や削減方法そのものについても定められています。CORSIAにおける各種ルールについて解説します。
CORSIA対象者の役割
CORSIAの対象者は、各国政府と民間航空事業者です。各国政府は所管する航空事業者のための体制整備と、航空事業者からの報告を取りまとめてICAOに報告する義務があります。民間航空事業者は、CO2排出量の把握、削減、オフセットの義務を負っています。具体的には以下のような手順で、それぞれの役割が遂行されます。
民間航空事業者 |
各国政府 |
CO2排出量のモニタリング計画を策定し、政府へ提出 |
提出されたモニタリング計画を承認 |
CO2排出量をモニタリングし、レポートを政府へ提出 |
提出されたレポートを確認、必要なオフセット(相殺)量を算出し事業者へ通知 |
通知されたオフセット量について対応し、「排出ユニットキャンセル報告書」を政府へ提出 |
キャンセル報告書を確認し、ICAOへ遵守報告 |
出典:公益財団法人 地球環境戦略研究機関「CORSIA(国際⺠間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)について」p13
SAFの国際認証
航空分野における脱炭素化には、SAF(サフ、Sustainable Aviation Fuel)の導入が重要です。SAFとは廃食油、サトウキビなどのバイオマス燃料や都市ごみ等を原料とした持続可能な航空燃料のことです。SAFはライフサイクル全体(製造から使用までの一連の過程)で、約60~80%のCO2削減効果があります。CORSIAでは「CORSIA適格燃料(CEF)」として認証・登録を得たものだけが、SAFとして認められます。日本においても、国産SAFのCEF登録・認証取得に官民を挙げて取り組んでいます。
出典:国土交通省「ソラカボ☆ポータル(空のカーボンニュートラルポータルサイト)> 詳細」
市場メカニズム(排出権取引)
企業が森林保護や省エネルギー機器導入などを行うことで生まれたCO2削減効果をクレジット(排出権)として発行し、他の企業などとの間で取引できるようにする仕組みをカーボンクレジットと言います。カーボンクレジットの購入によって、自社では削減が困難なCO2排出量をオフセット(相殺)することができます。CORSIAではベースラインを超える排出量をオフセットすることが航空事業者へ義務付けられていますが、CORSIAで使用できるカーボンクレジットは、CORSIA適格排出クレジットとしてICAO理事会から承認を受けたものに限られています。
出典:国土交通省「航空脱炭素化に向けたその他の課題」p6-7(2023/3/30)
3.日本におけるCORSIAに関する取組事例
日本でもさまざまな企業や機関が、CORSIA対応に取り組んでいます。日本におけるCORSIA関連の取組事例をご紹介します。
日本グリーン電力開発株式会社
日本グリーン電力株式会社は2024年3月、規格外ココナッツをCORSIAのポジティブリスト(CORSIAでSAFの原料として適用可能な廃棄物・残滓・副産物のリスト)に新規登録することに成功しました。規格外ココナッツとは、未成熟・発芽・割れ・腐敗などで食用にできないココナッツのことです。全世界で生産されるココナッツのうち2~3千万トンが規格外と推定されており、規格外ココナッツのSAFへの活用が期待されています。日本グリーン電力株式会社では、2030年を目標に規格外ココナッツを原料としたSAFの商業化を計画しています。
出典:日本グリーン電力開発株式会社「規格外ココナッツがSAFの原料としてICAO CORSIAのPositive Listに新規登録」(2024/4/5)
J-クレジット
経済産業省・環境省・農林水産省が運営するJ-クレジットは、日本国が承認しているカーボンクレジットです。J-クレジットでは、需要の拡大によるJ-クレジット市場の活性化などを企図して、CORSIA参加を目指しています。J-クレジットは2022年にCORSIA適格排出クレジットとしての認定を申請しましたが、「再申請を要す」と判定されました。2023年3月に再申請を行ったものの、11月に再び「再申請を要す」 と判定されています。判定理由は開示されておらず、J-クレジットでは理由を精査し今後の対応方針を検討する方針です。
出典:J-クレジット制度事務局「J-クレジット制度について」
出典:経済産業省・環境省・農林水産省「Jークレジット制度のCORSIAへの申請について」p2(2021/12)
出典:J-クレジット制度事務局「第33回J-クレジット制度運営委員会資料」p61(2023/12/19)
日本航空株式会社
日本航空株式会社では、CORSIAへの対応も念頭に、新たな長期目標として2050年度までにCO₂排出量実質ゼロを目指す「ゼロエミッション」を2020年6月に発表しました。取り組みの柱として、「省燃費機材への更新」「バイオジェット燃料の開発促進と活用」「日々の運航での工夫」「排出量取引への対応」という4項目が掲げられています。排出量取引に関しては、航空以外の業界とも力を合わせることを目指しています。
出典:Challenge Zero「2050年ゼロエミッションを目指して」
4.まとめ:CORSIAに対応して、航空分野でのカーボンニュートラルを実現しよう!
国際民間航空におけるCO2削減とカーボンオフセットのための枠組みCORSIAには、世界各国が参画して航空業界におけるCO2排出量削減に取り組んでいます。航空輸送においてはCO2の抜本的な削減が技術的に困難なことから、カーボンオフセットの活用がCORSIA対応における重要なポイントになります。日本においてもJ-クレジットのCORSIA承認申請などの努力が行われており、今後の展開が期待されるところです。さらに新たな国産SAFの開発やそのCORSIA承認などにも、注目する必要があるでしょう。
CORSIAへの対応を通じて、航空分野でのカーボンニュートラルを実現しましょう。