アメリカの水素戦略と日本の水素利用拡大に向けた取り組み
- 2023年11月30日
- 発電・エネルギー
脱炭素社会に向けて水素活用への取り組みが世界各国で広がっています。特に環境問題に取り組むアメリカと日本では、水素の活用は欠かせないテクノロジーのひとつです。水素戦略に関しては、政府による法整備と利活用に関する技術開発や研究の2つが必要になっています。アメリカと日本の水素戦略は、今後どのような展開を見せるのでしょうか。
この記事では、アメリカの水素戦略と州政府による水素への取り組み、日本の水素利用拡大に向けた取り組みについてまとめています。
目次
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アメリカの水素事情と今後の戦略
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アメリカの州政府による水素への取り組み
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日本の水素戦略について
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まとめ:アメリカの水素利用拡大に向けた今後の取り組みについて注目しよう!
1. アメリカの水素事情と今後の戦略
アメリカの水素事情と水素利用拡大に向けた今後の戦略について解説しています。
(1)水素利用の現状
アメリカにおいて水素は、鉄鋼業や輸送業など脱炭素化が難しいとされる分野に活用できる技術として期待されています。現在のアメリカの水素生産量は、年間およそ1000万トンで、生産量のおよそ95%が天然ガスから生成されています。生産される水素の大部分は石油およびアンモニア生産の原料として利用されていますが、発電や蓄電池にも活用できます。
アメリカはこのような水素の汎用性の高さに目をつけ、「水素ハブ」とよばれるクリーン水素を生産・貯蔵する工業用水素施設を各地に設立するとともに、水素利用拡大への支援として、2022~2026年の5年間にかけて80億ドル(およそ1兆2000億円)の予算を割り当てる方針です。
水素の質についても言及がなされています。2023年6月に発表された国家水素クリーン水素戦略では、現在アメリカで利用されている水素の約5%のみがクリーン水素である現状を危惧しており、産業におけるクリーン水素の利用促進とネットワーク構築の推進を掲げ、実行した企業には水素1 ㎏につき最大0.6ドルもの税額控除を付与する予定です。
出典:独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構『米国の水素動向』(2022/8/26)
出典:JETRO『米エネルギー省、国家クリーン水素戦略を発表、2030年までに1,000万トン製造を目指す』(2023年6月7日)
(2)水素利用拡大に向けた戦略
クリーン水素の生産コスト引き下げ
アメリカ政府は再生可能エネルギーや原子力発電などのクリーンな電力で生産した水素の価格を、10年間で80%引き下げて1キログラム当たり1ドルとする目標を掲げました。
さらに、温室効果ガスの排出削減に向け、クリーンエネルギーの普及と開発を促す「エネルギー・アースショット」計画を打ち出しましたが、クリーン水素のコストの高さが課題であることから、コスト引き下げによる水素利用拡大を推進しています。
インフレ抑制法による税控除
「インフレ抑制法」は、10年間(2022〜2031年)で財政赤字を約3000億ドル(およそ44兆円)削減することで、インフレの減速を狙った法案です。そこで削減した分をエネルギーや気候変動の分野への税控除や補助金として活用します。
水素を活用している電気自動車や燃料電池自動車においても、一定の要件を満たした場合に10年間で89億ドル(およそ1兆3000億円)の税控除が適用されます。しかし、今のところ要件が厳しいため、この先どの程度適用されるのかは未だ不透明な状態です。
出典:ロイター『バイデン米政権、クリーン水素の生産コスト引き下げで目標提示』(2021/6/8)
出典:日経ESG『米国インフレ抑制法、3690億ドルを気候変動に投資』(2022/8/23)
2. アメリカの州政府による水素への取り組み
アメリカの州政府による水素への取り組みとして、カリフォルニア州、テキサス州、ノースダコタ州の政策について解説しています。
(1)カリフォルニア州の取り組み
カリフォルニア州は2045年までのカーボンニュートラルに向け、「2030年までに1日あたり15000トンのクリーン水素を生産・消費する」という明確な目標を設定しています。それに伴い、カリフォルニア州政府は2023年末までに水素プロジェクトに対して約2億3000万ドル(およそ340億円)を費やす方針です。
カリフォルニア州は特に燃料電池電気自動車の開発・普及に尽力しています。2022年6月時点でアメリカ国内に48カ所の水素ステーションが設置されていますが、ほとんどがカリフォルニア州に存在しています。
カリフォルニア州では今後5年間で5万台の小型燃料電池自動車の増加と、2030年までに1000台の水素ステーションの建設に取り組む意向を示しています。
出典:独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構『米国の水素動向』(2022/8/26)
(2)テキサス州の取り組み
テキサス州では、州政府が水素プロジェクトを推進するのではなく、民間企業が中心となって水素プロジェクトを進めています。
テキサス州の電力会社Energy Texasはテキサス州南東部の電力需要の増加に対応するため、水素と天然ガスの両方を燃料として使用できる121.5万kWの火力発電所の建設認可を求めています。また、大手石油会社であるエクソンモービルは2022年3月に、テキサス州ベイタウンの複合施設での水素製造計画を公表しました。この計画では、1日当たり最大およそ2830万立方メートルの水素を生成できる見込みです。
また、テキサス州にすでに存在する環境やインフラストラクチャを活用した事業転換も行われています。テキサス州は豊富な天然ガスや海岸に存在する1600マイルもの水素パイプラインがあり、事業用地として注目を集めています。テキサス州を拠点としている石油企業は既存のインフラネットワークを水素事業に活用しようと試みており、発電所の建設を含め水素利用の一大拠点になると考えられています。
出典:独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構『米国の水素動向』(2022/8/26)
(3)ノースダコタ州の取り組み
ノースダコタ州はアメリカの中でも石油や天然ガス、石炭などの化石燃料が多く産出される地域ですが、2030年までにカーボンニュートラルを目指しています。それに伴い、総額3億ドル(およそ440億円)の「クリーン持続的エネルギー基金」を設立し、水素事業への支援を進める意向です。
ノースダコタ州では2027年までに二酸化炭素をを回収・貯留し、年間30万トン以上の水素を生産する水素ハブ事業を、日本の三菱重工業とアメリカのエネルギー会社であるバッケンエナジーが協働で計画しています。ノースダコタ州政府はこの事業に対して合計9000万ドル(およそ130億円)を補助金として支給する方針です。
出典:独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構『米国の水素動向』(2022/8/26)
3. 日本の水素戦略について
日本の水素社会実現に向けた取り組みと、今後の水素戦略について解説しています。
(1)日本の水素社会実現に向けた取り組み
日本でも2020年に、2050年までにカーボンニュートラルを目指す宣言がなされました。2017年に水素基本戦略が策定されているように、水素は発電や運輸などあらゆる分野での活用が期待されています。
政府は、現在年間およそ200万トンである水素供給量を2030年に年間300万トン、2050年には年間2000万トン程度に拡大するとともに、2030年までに水電解装置による水素製造の商用化の実現を目指しています。
出典:資源エネルギー庁『「令和3年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2022)』
(2)今後の水素戦略
水素製造における研究・技術開発
日本では太陽光発電といった自然変動電源の出力を利用して、水素に変換・貯蔵するPower-to-gas技術が注目されています。現在福島県にあるエネルギー研究所において、再生可能エネルギーから水素を製造する実証プロジェクトが進行中です。
また、グリーンイノベーション基金を活用し、水素を生成するための水電解装置の大型化についての技術開発も進められています。
燃料電池自動車の普及
日本では2013年から燃料電池自動車の市場普及に向けた水素ステーションの整備が開始され、2022年2月末までに158ヵ所の水素ステーションが設立されました。現在は燃料電池自動車だけでなく、燃料電池バスや大型燃料電池トラックの開発も進められています。
今後は、燃料電池自動車や水素ステーションの普及に向け、低コスト化への技術開発や整備を進めるとともに、商用車及び燃料電池フォークリフトについての導入拡大にも取り組む方針です。
出典:資源エネルギー庁『「令和3年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2022)』
4. まとめ:アメリカの水素利用拡大に向けた今後の取り組みについて注目しよう!
この記事で述べたように、アメリカや日本では水素を利用した発電や燃料電池自動車など、水素利用拡大に向け政府や企業が協働して取り組みを進めています。
特にアメリカでは電気自動車や燃料電池自動車の登場によって水素が、より身近な存在になりました。また各州でカーボンニュートラルの目標設定や民間企業による水素事業への進出が行われており、地球温暖化の抑制や気候変動への対応において、水素というのはこの先とても重要な存在になることでしょう。
アメリカの動向は世界に大きな影響を与えます。これから水素市場の拡大に向けてどのような取り組みを進めていくのか、注目してみてください。