人的資本経営とは?取り組みのポイントも解説
- 2023年11月06日
- 省エネ
企業が事業活動を行う上で重要性が高まっている人的資本経営とはなにか、分かりやすく解説します!ESG投資などの広がりに伴い、人的資本経営は現代の企業にとって必須の取り組みとなりつつあります。また人的資本経営によって、企業価値の持続的な向上が実現します。
どんなにテクノロジーが発達しても、事業活動を動かすのは人間です。人的資本経営を理解することは、今後ますます大切になっていくでしょう。個別企業の取組事例についてもご紹介します。
目次
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人的資本経営の概要
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人的資本経営の必要性とステークホルダーの役割
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人材戦略のフレームワーク3P・5Fとは
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企業の人的資本経営事例
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まとめ:人的資本経営について理解し、企業価値向上へ取り組もう!
1. 人的資本経営の概要
人的資本経営は、今や企業の持続的成長に欠かせないものとして、多くの企業の経営課題になっています。この記事では人的資本経営の意味や国内における現状について解説します。
人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。人的資本経営を行うことで、「人への投資」に積極的な日本企業に世界中から資金が集まり、次なる成長へと繋がることが期待されています。
出典:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
人的資本経営の現状
経済産業省が令和4年5月に公表した「人的資本経営に関する調査 集計結果」によると、人材戦略の重要性の理解は進んでいる一方、取組を具体化していく段階で足踏みをしている企業が多くなっています。
調査票における経営陣の自由回答欄には、以下のようなコメントも見られました。
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人材はまさに重要な資源であることを十分認識しつつも、目の前の業績や営業面に目を取られがち
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重要性を認識してはいるが、人的リソースや知見の不足から実行に移せていない
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まだまだ事業に関する直接的な課題の議論や対応にとどまっており、どのように取り組みを進めていくべきか早急に検討していきたい
出典:経済産業省「人的資本経営に関する調査 集計結果」(2022/5)P3-12
企業の人的資本情報開示について
2022年に内閣官房による「人的資本可視化指針」の公表や、2023年3月期決算から有価証券報告書の開示項目に人的資本に関する項目が追加されたことをきっかけとして、人的資本に関する情報開示が日本国内でも注目されています。人的資本の情報は、各企業の経営戦略の実現可能性を評価するために有用な情報と考えられています。企業の人的資本情報開示は、今後ますます重要になっていくでしょう。
出典:経済産業省「人的資本経営コンソーシアム好事例集」(2023/5)p4
2. 人的資本経営の必要性とステークホルダーの役割
経済産業省では、人材戦略に関する研究会を2020年1月から開催しており、2020年9月には「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」を公表しました。この報告書は通称「人材版伊藤レポート」と呼ばれ、人的資本経営のあり方を示しています。人材版伊藤レポート(以下「同レポート」)では、人的資本経営の必要性やステークホルダーの役割、そして「3P・5F」というフレームワークについて触れられています。その内容について解説します。
持続的な企業価値の向上と人的資本
同レポートは、企業の経営課題は人材面での課題と表裏一体であると指摘しています。そのため、企業理念や存在意義(パーパス)まで立ち戻り、持続的な企業価値の向上に向け、人材戦略を変革させる必要があるとも述べています。
また、国内外の機関投資家においても、持続的な企業価値向上のためにESG(E:
環境S:社会課題G:企業統治=企業の財務以外の側面)要因を重視する流れがあり、特に人的資本対応を含むS(ソーシャル)の重要性が主張されているため、持続的な企業価値向上には人的資本経営が必要だと記述しています。
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(2020/9)P2
経営陣、取締役会、投資家が果たすべき役割
同レポートでは、人的資本経営を行う上で、各ステークホルダーの役割も重視されています。たとえば経営陣は、経営戦略と連動した人材戦略の策定・実行と、従業員・投資家に対する発信・対話が求められます。取締役会には、人材に関する議論・監督・モニタリングを通じて、人材戦略の方向性が経営戦略の方向性と連動するよう、適切な方向に導く役割が求められています。また投資家には、人材戦略を考慮した投資先の選定という役割が求められています。
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(2020/9)P3-4
3. 人材戦略のフレームワーク3P・5Fとは
同レポートでは人材戦略のフレームワークとして3P・5Fを提唱しています。3Pは「3つの視点」、5Fは「5つの共通要素」を意味しています。3P・5Fそれぞれについて解説します。
人材戦略に求められる3つの視点
3Pとは、3つの視点(Perspective)のことです。視点1は「経営戦略と人材戦略の連動」で、各企業は自社のビジネスモデルや経営戦略に沿って、自社に適した人材戦略を考える必要があります。視点2は「As is‐To beギャップの定量把握」で、KPI(重要業績評価指標)を用いて目指すべき姿(To be)の設定と現在の姿(As is)のギャップを定量的に把握することが必要です。
視点3は「人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着」で、経営トップ自らが粘り強く発信していくとともに、企業文化に関しても適切なKPIを設定し検証することが求められます。これら3つの視点から、ビジネスモデルに応じた個社性を踏まえつつ、人材戦略を俯瞰することが企業には求められます。
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(2020/9)P5
人材戦略に求められる5つの共通要素
5Fとは、5つの共通要素(Common Factors)を指します。
要素1は「動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化」で、将来的な目標から帰納する形で必要となる人材の要件を定義し、獲得・育成することが求められます。
要素2は「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」で、性別・国籍などの属性や、他業界での経験など専門分野の多様性を取り込むことが求められます。
要素3は「リスキル・学び直し」で、社員が自らのキャリアを見据え、学び直しに取り組むことができるよう、企業として支援することが求められます。
要素4は「従業員エンゲージメント」で、従業員が働きがいを感じて主体的に業務に取り組むことができる環境が求められます。
要素5は「時間や場所にとらわれない働き方」で、いつでもどこでも安心して働くことができる環境を整えることが、事業継続の観点からも求められます。
これらは経営陣が主導して策定・実行する人材戦略に共通する5要素とされ、3Pと合わせて「3P・5Fモデル」と呼ばれています。
alt属性(人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(3P・5Fモデル))
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(2020/9)P5
4. 企業の人的資本経営事例
人材資本経営に取り組む企業の事例をご紹介します。
旭化成
旭化成株式会社では、経営戦略の実現に必要な人財(※同社では人材を人財と呼んでいる)ポートフォリオの構築のために、人財の質と量を毎年全社的に洗い出しています。採用や育成で確保できない人財は、M&Aや社外への投資によるコネクションの強化を通じて対応しています。
また自社独自のエンゲージメント調査により、社員の活力や成長につながる行動を毎年確認しています。ラインマネージャー(各部門長)は自部署の回答を把握し、より良い職場づくりを目指してメンバーとの対話などを行っています。
出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 実践事例集」(2022/5)P6-9
東京海上ホールディングス
東京海上ホールディングス株式会社では、多様な人材の連帯を人材戦略と捉え、社員共通の土台となるパーパスを浸透すべく、「マジきら会」(まじめな話を気楽にする対話)を、役員も含め積極的に実施しています。
また全国の社員が各地での業務と本社部門のプロジェクト業務を兼務する「プロジェクトリクエスト制度」や、勤務時間帯を枠内で自由に選択できる「スーパーマイセレクト制度」を導入し、場所や時間にとらわれず多様な働き方ができるよう取り組んでいます。
出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 実践事例集」(2022/5)P54-57
KDDI
KDDI株式会社では、新卒採用で初期配属領域を確約する「WILLコース」を導入し、専門人材の採用や意向に沿った配置によるエンゲージメント向上を目指しています。さらに通年にわたる採用をすることで、多様な就学スタイルを持つ多様な人材を採用できるようなシステムを構築しています。
またキャリア採用に力を入れており、2021年度は採用人数の4割がキャリア採用での入社になっています。専門性の高い人材をキャリア採用することで、成長領域の加速を実現していくことを目指しています。
出典:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 実践事例集」(2022/5)P34-37
5. まとめ:人的資本経営について理解し、企業価値向上へ取り組もう!
人的資本経営は、人材を資本ととらえて企業の持続的な成長を目指す経営手法です。ESG経営の広がりとともに、人的資本経営への注目度が高まっています。一方日本においては取り組みが十分ではない場合も見られます。
人的資本経営については、「伊藤レポート」に示された「3P・5Fモデル」で整理することができます。人的資本経営について理解し、人的資本投資を高めて企業価値の向上に取り組みましょう。