気候変動に向けたCO2削減策とは?削減による企業のメリットも解説

地球温暖化が急速に進む中、日本を含む世界各国はCO2の削減目標を提示し、気候変動の原因であるCO2削減に向けた動きを急ピッチで進めています。今回は、気候変動問題の現状と気候変動抑制のための政策、さらに日本のCO2削減策や中小企業によるCO2削減への取り組み、などについてまとめます。

目次

  1. 気候変動問題とは

  2. CO2を削減し気候変動抑制を目指すパリ協定

  3. 日本のCO2削減策

  4. 中小企業のCO2削減のメリット

  5. まとめ:CO2削減で企業価値を向上させよう!

1. 気候変動問題とは

(1)気候変動の原因であるCO2

気候変動の原因は大きく分けて2つあります。1つは自然の要因。もう一つは人為的な要因です。自然の要因には太陽の活動、火山の噴火、海洋の変動といったものがあげられます。

出典:気象庁『気象庁|気候変動

一方、人為的要因の中でもっとも注目されているのが二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの増加です。産業革命以後、工業化の進展により二酸化炭素排出量は増加。それにともなって気温も上昇し続けています。

出典:環境省『IPCC 第5次評価報告書の概要 -WG1(自然科学的根拠)-』(P12)(2014/12)

気温が上昇することで引き起こされる問題として、主に地球温暖化と自然災害などの気候変動が挙げられます。以下ではそれぞれの問題に関して説明していきます。

(2)地球温暖化について

出典:気象庁『温室効果とは』(P1)(2018/3)

地球温暖化とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの効果により地球全体の平均気温が増加する現象のことです。

二酸化炭素やメタンなどの気体は赤外線を吸収し、再び放出するという性質を持ちます。そのため、温室効果ガスは太陽化地球に降り注いだ赤外線の一部を吸収し、地上に戻すという温室効果を引き起こします。

温室効果のおかげで、地球は一定の温度を保つことができるのですが、温室効果ガスが増えすぎると、本来宇宙に逃がすはずの赤外線まで地表に戻してしまうため、地球気温の上昇を招いてしまうのです。世界気温の大幅な上昇は、気候変動の原因となります。

出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第2部第1章第1節 地球温暖化対策

地球温暖化についてはいくつかのシナリオが考えられています。温室効果ガス排出の抑制に積極的に取り組まなかった場合、地球全体の平均気温は2.6~4.8℃上昇する可能性が高いと考えられています。

※RCPシナリオとは、IPCCにおいて用いられる気候の予測や影響を調査するための指標です。第5次報告書においては温室効果ガス濃度経路を4つ用意し、それぞれの経路ごとの将来の気候予測や経済社会の目標策定において役立っています。

出典:IPCC第5次評価報告書特設ページ『将来予測におけるRCPシナリオとは?』

(3)地球温暖化がもたらす自然災害

世界における自然災害

出典:環境省『「おしえて!地球温暖化」』(P3)(2019/3/29)

現在の地球平均気温は1750年頃と比べ1℃ほど上昇しています。それによって、どのような影響が出ているのでしょうか。もっとも顕著なのは北極海の海氷減少と世界的な海面水位の上昇です。極地や山岳地帯の氷が融けた結果、海面が上昇しました。

また、気候の極端化現象が観測されるようになりました。降雨パターンの変化や熱帯低気圧の発生数増加、特定地域での干ばつ長期化などがその一例と考えられています。

日本における自然災害

出典:環境省『「おしえて!地球温暖化」』(P4)(2019/3/29)

加えて、日本でも猛暑日の増加や豪雨の頻発、年間降水量の減少、水稲や果実の品質低下、野生生物の変化などが起きています。

(4)気候変動を止めるには世界的なCO2排出量の削減が必要

出典:環境省『令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第2部第1章第1節 地球温暖化対策

地球温暖化はさまざまな自然災害をもたらしています。こうした自然災害の発生を抑え、人類全体が持続的に発展するにはCO2排出量の削減が必須です。増加を抑える仕組みを作り、二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることで、地球温暖化を食い止めなければなりません。

今日問題になっているように、地球温暖化は日本にも多大な影響を及ぼしています。地球温暖化がすすめば、猛暑日や短時間豪雨(ゲリラ豪雨)の発生回数、雨が降らない無降水日数などが全国的にさらに増加すると予測されています。

このことから、日本の企業にとってもCO2の排出量削減は他人事ではありません。気候変動を抑えることは、これからの企業の持続可能な発展を目指すためにも必要不可欠なことなのです。

2. CO2を削減し気候変動抑制を目指すパリ協定

出典:環境省『「おしえて!地球温暖化」』(P7)(2019/3/29)

2015年12月、フランスのパリで開催されたCOP21において、法的拘束力を持つ国際協定であるパリ協定が締結されました。

パリ協定は197の国と地域が参加する協定です。パリ協定の目的は、世界の平均気温を産業革命以前と比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑えること。そのために、21世紀後半の人為的な温室効果ガス排出量を実質ゼロに抑えることで合意しました。

各国は個別に目標を立て、それを達成すべく努力することが求められます。達成できなかったことに対して罰則規定はありませんが、各国は進捗状況の報告を義務付けられました。

これは、先進国に達成義務が課されていた京都議定書と大きく異なる点です。パリ協定では発展途上国にも削減目標設定が求められています。先進国も発展途上国もそれぞれができる範囲で気候変動に対処するという基盤が作られたといってよいでしょう。

また、パリ協定では、5年ごとに世界全体の状況を把握し再評価。それにもとづいて目標を修正し、少しでも早い目標達成を目指します。

3. 日本のCO2削減策

(1)政府が目指すカーボンニュートラル

2020年10月26日、菅総理大臣は国会の所信表明演説において、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする(※)、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。

出典:首相官邸『令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説

出典:資源エネルギー庁『「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?』(2021/2/16)

カーボン、すなわち炭素の排出を完全にゼロにすることは困難です。よってやむを得ず排出されるCO2の量と吸収・除去量を差し引きゼロにすることで、カーボン排出量を実質ゼロにするというのが「カーボンニュートラル」という考え方です。

(2)環境省による気候変動への取り組み

パリ協定の合意後、環境省は気候変動への適応施策を進めました。そして、温室効果ガス削減により積極的に動き出します。

環境省は削減施策として4つの柱を立てました。

  1. 一つ目の柱は人々のライフスタイルを変えていくこと。
    持続可能な地域づくりをめざし、地域資源の有効活用や省エネ、再生可能エネルギーの利用拡大などを進めます。
  2. 二つ目の柱は技術のイノベーションを進めること。
    低炭素社会を実現するため、水素の活用やCO2の回収技術などを開発します。
  3. 三つ目の柱は経済や社会のイノベーション。
    環境技術の開発などを支援するグリーンファイナンスの加速やESG投資の拡大などをはかります。
  4. 四つ目の柱は海外との連携。
    日本の環境技術を世界に広めることで世界全体の温室効果ガス削減に貢献します。

出典:環境省『「おしえて!地球温暖化」』(P7)(2019/3/29)
出典:環境省『環境省における気候変動対策の取組』(P27)(2020/9/1)

4. 中小企業のCO2削減のメリット

中小企業がCO2削減にとりくむことでどのようなメリットがあるのでしょうか。環境省はパンフレット『中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック』の中で5つのメリットを挙げています。

(1)自社の競争力を強化し、売上・受注を拡大できる

近年、SDGsなどの影響により、大企業を中心に環境に関して高い意識で取り組む傾向がみられます。こうした企業は取引先に対しても、再生可能エネルギーの使用を求めることがあります。

そうした企業の仕事を受注するにあたって、自社がCO2削減に積極的に取り組んでいることをアピールすることは、自社の優位性を高めることになるでしょう。

(2)光熱費・燃料費の低減

CO2削減を達成するには、自社の作業工程の中でどの部分がCO2をより多く排出しているか分析する必要があります。中部産商株式会社では鋳造用耐火物の製造過程を見直し、使用していたガスを半分に減らすことで1000万円もの光熱費を削減できました。

出典:環境省『中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック』(p15)

(3)知名度の向上

2050年までのカーボンニュートラルは国の政策として強力に推進されることが予想されます。そうなると、CO2削減に積極的な企業は国や地方自治体から表彰される可能性が高まるでしょう。そうすると、CO2削減の取り組みに成功すれば、それが取り上げられ企業の知名度やイメージの向上をもたらしてくれるでしょう。

(4)社員のモチベーション向上

1881年に創業した大川印刷は脱炭素経営を実践し、社員のモチベーションアップや優秀な人材の獲得に成功しています。従業員が地球環境問題のセミナーの講師となったり、気候危機に関する情報を発信するなど意識が高まりました。

出典:環境省『中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック』(p8~11)

(5)資金調達が有利になる

環境省はCO2削減を推進するため、「地域脱炭素投資促進ファンド事業」で基金を創設。その資金でグリーンファンドを創設しました。グリーンファンドは、出資を通して地域の脱炭素プロジェクトを進める事業者等をサポートします。

出典:一般社団法人グリーンファンド推進機構『グリーンファンドの出資対象 - グリーンファイナンス』を元にアスエネ作成

SDGsの考え方が浸透すれば、今後、銀行やファンドなどが出資条件としてCO2削減の取り組みを評価する可能性が高まるでしょう。その前に、先行してCO2削減に取り組むことで企業経営を安定化させることができるのです。

5. まとめ:CO2削減による気候変動対応で企業価値を向上させよう!

2020年から始動するパリ協定の枠組み。それは、世界全体でCO2を削減し気候変動に対応しようという大きな流れを生み出しました。これまで、環境問題に関係が薄いと思われていた中小企業も、否応なくCO2削減を迫られることになるでしょう。

そうであれば、義務的にCO2削減に取り組むのではなく、企業価値を高める取り組み方を目指すべきではないでしょうか。CO2削減への取り組みで企業イメージを向上させ、グリーンファイナンスなどの融資を受けやすくすることも可能です。

中小企業の皆様は、気候変動問題に対する戦略的な取り組みを導入し、地球環境に貢献するとともに新たな企業価値向上に向けて舵を切ってみてはいかがでしょうか。

 

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