カーボン・オフセット市場が拡大!その背景には?
- 2023年07月24日
- 省エネ
近年、カーボン・オフセットは、カーボンニュートラルの一環として注目されており、カーボン・オフセット市場は、拡大しています。この記事では、まずカーボン・オフセットの概要を説明し、その後、国内外の取り組み事例を紹介します。
さらに、本記事では直近の市場動向と将来展望を探り、カーボン・オフセット市場が直面する課題についても解説します。
目次
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カーボン・オフセットの概要
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カーボン・オフセット取り組み事例の紹介
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直近6カ月の市場動向カーボン・オフセット市場
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カーボン・オフセット市場の将来展望と課題
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まとめ:カーボン・オフセット市場に関する情報につき、アンテナを張っておこう!
1. カーボン・オフセットの概要
(1)カーボン・オフセットとは?
カーボン・オフセットとは、個人や企業等自身が、温室効果ガス等の排出量を認識し、これを削減する努力のことをいいます。
削減が困難部分の排出量については、他の場所で実現した温室効果ガス排出削減・吸収量等(クレジット)の購入、他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクト、活動への出資や実施等により、削減が困難な部分の全部又は一部の埋め合わせを行うことをいい、以下にその例を添付しています。
出典:環境省「カーボン オフセットの現状と カーボン・ニュートラル」(2011/6)p2
(2)カーボン・オフセットで用いられるクレジットの種類
カーボン・オフセットに使用されるクレジットは、市場流通型クレジットと非市場流通型クレジットに分けられます。市場流通型クレジットは、一定の基準に基づいて作成され、第三者に譲渡されたり市場で取引されることが想定されており、これらのクレジットは信頼性が確保され、公的機関による検証が行われています。
一方、非市場流通型クレジットは、特定の取り組みに関与する者と排出削減・吸収活動を行う者の間で合意されるクレジットや、自らの活動によって生み出されるクレジットであり、第三者への譲渡や市場での流通は想定されていません。そのため、非市場流通型クレジットは柔軟に活用することができますが、明確な基準が設けられていないため、使用する際にはプロジェクトや活動の内容を理解し、信頼性を確保する責任があります。
出典:環境省「我が国におけるカーボン・オフセット のあり方について(指針)改定」(2021/3/19)p8-9
2. カーボン・オフセットの取り組み事例の紹介
カーボン・オフセットの取り組み事例について解説いたします。
(1)日本におけるカーボン・オフセットの取り組み事例と主な企業・団体
日本のカーボン・オフセットの取り組み事例、及び企業・団体を以下でご紹介します。
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自己活動オフセット
自己活動オフセットとは、自らの活動に伴って排出される温室効果ガス排出量をオフセット(埋め合わせ、相殺)することをいいます。例えば、ヤフー株式会社では、ユーザーが自身で設定した活動に係る排出量・ヤフー株式会社のオフィスおよびデータセンターにおける前年度の電力使用に伴い排出されるCO2排出量をオフセットしています。
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会議・イベント開催オフセット
会議・イベント開催オフセットとは、国際会議やコンサート、スポーツ大会等の開催に伴って排出される温室効果ガス排出量をオフセットするものをいいます。例えば、横浜市では、約700名の児童や地域住民が参加することでそうめん流しのイベント開催に利用するそうめんを茹でるガス使用に伴うCO2排出量19.71kgをオフセットしました。
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特定者間完結型オフセット
特定者間完結型オフセットとは、クレジットを使用しない取り組みをいい、例えば、住友林業㈱では、戸建住宅建築に伴うCO2排出量をインドネシアで植林することによりオフセットしています。
出典:経済産業省「カーボン・オフセットの取り組み事例」p1-4
(2)海外におけるカーボン・オフセットの取り組み事例
海外でも、様々な方法によるカーボン・オフセットの取り組み事例が見受けられます。
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航空機利用の際のカーボン・オフセット
航空機利用の際に排出されるCO2量をオフセットする取り組みがあります。例えば、British Airways社では、オフセットを希望する乗客は、ウェブサイトを通して航空チケットを購入する際にクレジットを購入できるようにしています。
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自動車利用時のカーボン・オフセット
自動車利用に伴って排出されるCO2量をオフセットする取り組みがあります。例えば、Land Rover社では、自動車を購入した顧客が当該自動車の走行に伴って排出するCO2量について、新車購入時等にオフセット用のクレジット価格も合わせて販売するサービスが提供されています。
出典:環境省「海外におけるカーボン・オフセット取り組み事例の紹介」p1.p4
3. カーボン・オフセット市場の動向と将来展望
以下では、カーボン・オフセット市場の動向と将来展望について解説します。
(1)カーボン・オフセット市場の動向
企業に対する炭素排出量削減の規制は、従来は政府によるものが主流でした。しかし、気候変動対策の要請の高まりにより、企業への規律付けは政府だけでなく、資本市場や取引先、消費者、NPO/NGOなどの多様なステークホルダーが関与する新しい潮流が広まっています。
この中で、カーボンクレジットも注目を集めており、民間主導のボランタリークレジットが中心となって企業の取り組みが活発化しています。特に最近では、省エネや再エネ活用による排出削減に加えて、削減努力をしても排出が避けられない場合に、カーボンクレジットを利用して残余排出を相殺(オフセット)する手段に注目が集まっています。
出典:経済産業省「カーボン・クレジット・レポート」(2022)p10
(2)カーボン・オフセット市場と将来展望
市場動向として、以下のグラフを見てみると国際的なカーボン・クレジットの発行量・無効化量の推移が右肩上がりとなっていることが分かります。具体的には、2011年には、カーボン・クレジット発行量が39MtCO2e、無効化量が12MtCO2eであったのに対し、2021年には、発行量が396MtCO2e、無効化量が165MtCO2eとなっており、10年で発行量が約10倍、無効化量が約13倍と、市場が拡大しています。
注釈:MtCO2eとは、国際的単位で、二酸化炭素の排出量を炭素換算してメガトン(100万トン)単位で表したものです。炭素換算とは、排出されるCO2に含まれる炭素の重量をいいます。
出典:経済産業省「カーボン・クレジット・レポートの概要」(2022/6)p21
4. カーボン・オフセット市場の将来展望と課題
カーボン・オフセット市場には、以下の課題が存在します。
認識と信頼性の問題
カーボン・オフセット市場には、オフセットの効果やプロジェクトの信頼性に関する情報が不足している場合があります。これにより、消費者や企業が適切なオフセットを選択することが困難になっています。
減少評価の効果
オフセットプロジェクトの排出削減効果を正確に評価することは困難です。プロジェクトの効果を測定し、確認するための一貫した方法や基準が不足しているため、オフセット量の妥当性に疑問が生じる場合があります。
ダブルカウントのリスク
オフセットクレジットが複数の取引で重複して使用される「ダブルカウント」のリスクがあります。これにより、実際の排出削減量が過大評価される可能性があります。
データ追跡と透明性の問題
カーボン・オフセットの取引プロセスやプロジェクトのデータの追跡と透明性の確保は重要ですが、データの欠如や不正確性、情報の非公開などが問題となり、データ追跡が困難となったり、透明性にかける場合が生じうることがあります。
出典:環境省「カ ーボン・オフセットの現状と カーボン・ニュートラル」(2011/6)p7
出典:経済産業省「カーボン・クレジット・レポート」(2022/6)p32-33
5. まとめ:カーボン・オフセット市場に関する情報につき、アンテナを張っておこう!
本記事では、カーボン・オフセットの概要と市場について解説しました。前述のグラフでも示した通り、カーボン・オフセット市場は現在拡大傾向にあります。
また、日本にとどまらず国際的なカーボンニュートラルの動きを踏まえると、カーボン・オフセット市場につき、アンテナを張って置く必要があるでしょう。もっとも、素早い情報収集のためには、カーボン・オフセットに関する基本的な理解を深めておくことが必要といえます。