サステナブルファイナンスとは?その目的や手法をご紹介

サステナブルファイナンスとは、気候変動や人権問題などの社会課題に対し、持続可能な社会を実現するための金融メカニズムです。その主な目的は、環境や社会に対する影響を考慮しながら長期的な経済成長を促進することです。サステナブルファイナンスは、持続可能な社会を実現するために欠かせない手段であり、今後、その役割はますます重要となります。ここでは、サステナブルファイナンスの意味や目的、主な取引方法などを実際にサステナブルファイナンスを活用している企業の事例とともにご紹介します。

目次

  1. サステナブルファイナンスとは何か

  2. サステナブルファイナンスはESG課題の解決となるか?

  3. サステナブルファイナンスの主な取引方法

  4. サステナブルファイナンスにおける企業事例

  5. まとめ:サステナブルファイナンスを有効利用して持続可能な社会に貢献しよう!

1.サステナブルファイナンスとは何か

まず、はじめにサステナブルファイナンスの意味や必要とされている理由などをご紹介します。

サステナブルとは

サステナブル(sustainable)は、「sustain(持続させる・維持する)」に「-able(〜できる)」が付いた単語で、「持続可能な・ずっと続けられる」という意味になります。例えば、気候変動の問題などで「持続可能な開発(Sustainable Development)」という言葉をよく耳にしますが、これは、将来のニーズを満たしながら現在の世間のニーズも満たすことを目指す開発のことで、環境保護と経済発展は共存できるものであると捉え、環境を守りながらバランスの取れた開発が重要だと考えられています。

出典:朝日新聞『「動詞+-able」の語』(2008/02/24)

出典:外務省『持続可能な開発 - 地球環境』(2015/02/04)

サステナブルファイナンスとは

サステナブルファイナンスとは、金融機関が投資を行う際に、環境や社会、企業の運営方針(ガバナンス)を考慮し、持続可能な経済活動やプロジェクトに対して長期的な投資を行うことを指します。国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までに脱炭素を達成するためには、年間1兆ドルの投資を2030年までに4兆ドルにまで増やす必要があるとし、日本でも2050年の目標達成には、日本の企業が行う取り組みが正しく評価され、国内外からの投資がスムーズに行われる環境を整えることが重要だとしています。そのため、サステナブルファイナンスは、市場が健全に機能し持続可能な社会と経済成長を支える重要な柱となると考えられています。

出典:国土交通省『グリーンインフラに係る資金調達手法について』p,4.( 2024/05/09)

出典:経済産業省『サステナブルファイナンスの推進について』p,2.3.(2022/04/15)

サステナブルファイナンスの促進理由

サステナブルファイナンスの活用が注目される背景には、気候変動の問題が大きく関係しています。2030年の世界の平均気温を見てみると、1991年〜2020年の30年間の平均気温よりも0.54℃高く、特に1990年代半ば以降、気温が高い年が増えています。そして、長期的には100年ごとに0.76℃の割合で上昇していることから、地球の気温は長い間にわたって徐々に上がってきていることが分かります。そして、温暖化を防ぐための脱炭素に関しては、世界中で設備投資や技術開発に多額な資金が必要で、このような企業の取り組みを支えるために、民間の金融機関の役割がとても重要だとしています。このような気候変動をはじめ、その他の社会的な課題である格差、人口減少などの問題に対処するために、これらの問題解決に役立つ資金やアドバイスを提供するサステナブルファイナンスの重要性が増しています。

世界の平均気温偏差

出典:気象庁 『世界の年平均気温』(2024/02/01)

出典:経済産業省『サステナブルファイナンスの推進について』p,2.3.(2022/04/15)

2.サステナブルファイナンスはESG課題の解決となるか?

気候変動や社会的課題が深刻化する中、持続可能な社会の実現が急務となっています。サステナブルファイナンスは、このようなESG課題を解決する金融活動を指し、持続可能な社会の実現を目指しています。

ESG課題とは何か

ESGとは、「環境:Environment」、「社会:Social」、「ガバナンス(企業統治):Governance」の3つの要素の頭文字をとった言葉で、これらの要素に配慮した経営・事業活動や投資活動を指します。具体的には、Eには環境問題や気候変動、生物多様性など、Sには社会、ダイバーシティ、サプライチェーンなど、Gには組織のシステムやルールの管理、情報開示の充実などが当てはまります。

ESGとは

出典:内閣府『ESG/SDGsと 消費者志向経営との関係 統治 社会 環境』p,1.(2018/10/18)

出典: 内閣府『2.2.1 ESGとは何か|令和2年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組状況調査報告書 』(2022/11/14)

出典:日本取引所グループ『加速されるESG経営 “社会課題の解決なき企業価値向上に未来はない”』p,12.(2020/11/13)

出典:財務省『ESG投資について』p,3~9.(2022/11/24)

サステナブルファイナンスの効果

企業がサステナブルファイナンスを活用することで、さまざまな効果が得られる期待があります。例えば、サステナブルファイナンスの活用で、企業は持続可能性に関する戦略を立てて実行しリスク管理やガバナンスの体制を整えることができるため、企業の中期的なESG評価を向上させ企業価値を高めるとともに、TCFDなどのESG情報開示などの要請に応えることができます。また、サステナブルファイナンスの活用は、環境や社会に配慮した持続可能な経済活動を推進していることを消費者などにアピールでき、社会からの支持を得やすくなる可能性もあります。

出典:国土交通省『グリーンインフラに係る資金調達手法について』p,4.( 2024/05/09)

グリーンウォッシュの懸念も

グリーンウォッシュとは、企業が環境に配慮しているように見せかけて企業の評価を上げようとする行動のことです。近年、ESGやサステナブルファイナンスは国内外で増えていますが、資産運用会社の対応が不十分で投資家に誤解を与えるグリーンウォッシュの懸念があります。具体的には、資産運用会社が投資戦略を変えずにサステナブル投資商品として提供することで投資家に誤解を与え、期待に応えられずに市場の信頼を損なう可能性があります。このような可能性を防ぐためにも、資産運用会社は投資家を守り、市場の信頼を保つための適切な対応が求められています。

出典:国立環境研究所 社会システム領域『将来世代とファイナンス|コラム』(2023/06/30)

出典:経済産業省『サステナブルファイナンスの推進について』p,6.(2022/04/15) 

3.サステナブルファイナンスの主な取引方法

サステナブル投資

サステナブル投資とは、投資をする際にESG(環境・社会・企業のガバナンス)を考慮して行う投資方法で、利益だけを追求するだけでなく地球や社会に良い影響を与えることも目指しています。この取引方法は、資産運用会社がESGに関する要素を財務分析の中にしっかりと取り組むことが重要とされ、サステナブル投資にはCO2排出を減らす企業やプロジェクトへの投資(低酸素ポートフォリオ)や多様性を尊重する企業への投資(ダイバーシティ)など環境や社会問題の解決に特化した「サステナビリティ・テーマ型投資」があります。その他に、環境保護や健康改善など環境や社会に良い影響を与えることを目的とした「インパクト投資」、支援が必要な人々や地域に資金を提供する「コミュニティ投資」などがあります。日本のESG関連投資信託は増加傾向で、2020年には新しく38本の投資信託が設定されましたが、2021年にはその数が86本まで増加していることからサステナブル投資の重要性と注目度の高さが分かります。

日本におけるESG関連投資信託の新規設定本数の推移

出典:経済産業省『サステナブルファイナンスの推進について』p,6.(2022/04/15) 

出典:NPO法人日本サステナブル投資フォーラム『グローバル・サステナブル投資白書2020』p,7.(2021/08/19)

サステナブル債

サステナブル債(SDGs債/ESG債)とは、ICMA原則(ソーシャルボンド原則)などの国際的に認められた基準に基づいて認証された環境や社会に良い影響を与えるために発行される債券で、その使い道や効果がしっかりと公開されるものです。サステナブル債には、社会的な問題を解決する目的のための債券「ソーシャルボンド」、環境問題を解決する目的のための債券「グリーンボンド」、社会問題と環境問題の両方の解決を目的とする債券「サステナビリティボンド」があります。その他にも、CO2排出量が多い企業が、脱炭素社会への移行を目指して行う事業のための債券「トランジョンボンド」、発行体が設定したサステナビリティ目標の達成度合いに応じて債券の条件が変わる「サステナビリティ・リンク・ボンド」などがあります。

出典:総務省『地方公共団体における多様な資金調達について(SDGs債(ESG債))』p,1.( 2023/06/20)

4.サステナブルファイナンスにおける企業事例

最後に、サステナブルファイナンスを活用している企業の事例をご紹介します。

長野県「グリーンファイナンス」

全国で4番目に広い県土を有する長野県は、県土の約8割を占める広大な森林と清らかな水や空気を活かし気候変動への対応とその影響を和らげるための施策を進めています。そのための資金を調達する手段として、環境に優しいプロジェクトに使われる「グリーンファイナンス」を活用し、調達した資金はCO2排出量削減や水害時の浸水被害の軽減などに使われる他、森林の保護と機能向上、生物多様性と水質の保全などにも充てられています。そして、グリーンファイナンスを活用することで県内の持続可能な投資や発行を促進するだけでなく、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献しています。

出典:長野県『長野県グリーンファイナンス フレームワーク』p,5.6.( 2023/08/22)

日本生命保険相互会社「インパクト投資」

大阪府に本店を置く日本の生命保険会社の日本生命保険相互会社は、投資と融資を通じて企業や社会の課題を解決し持続可能な社会を目指すことで、安定した収益を確保しています。その資金調達のために、ESGに関連するテーマの一環として社会や環境に良い影響を与えるインパクト投資を行なっています。そして、財務的な利益だけでなく持続可能な開発目標の達成を目指して、2020年9月に健康や医療分野のベンチャーファンドに投資を行いました。具体的には、難病治療のための新薬を開発する企業や先進的な医療機器を開発する企業に投資しています。

出典:金融庁『生命保険会社の取り組み事例について』p,7.8.(2022/11/10)

5.まとめ:サステナブルファイナンスを有効利用して持続可能な社会に貢献しよう!

サステナブルファイナンスとは、金融機関が投資を行う際に環境や社会、企業の運営方針(ガバナンス)を考慮して持続可能なプロジェクトに長期的に資金を支援することです。サステナブルファイナンスが注目される背景には、気候変動の問題が大きく影響しており、世界では地球温暖化を防ぐために多額の資金を投じて設備投資や技術開発が進められています。このような企業の取り組みを支えるために、民間の金融機関が非常に重要な役割を果たすと考えられています。サステナブルファイナンスには、サステナブル投資とサステナブル債があり、効果的に活用することで企業価値が高まると同時に、消費者や社会からの信頼を得やすくなります。ぜひ、サステナブルファイナンスを有効活用して持続可能な社会に貢献しましょう。

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